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そのまま一定の距離を保ちながら後を追う。
市場を出ると、街の方へと歩いていった。
建物の間の道をいくつか抜けると、噴水のある広場に出た。
中央に大きな噴水があり、その周りには待ち合わせの人や、音楽を奏でている人、本を読んでいる人など多くの人が集っていた。
先程の大通りとは違い、ここは穏やかな時間が流れていた。
その広場の端に、見覚えのある白い馬車がとまっている。
王たちはその馬車の方へと近づき、側近がノックすると中から10代半ばくらいの少年と老紳士が現れた。
老紳士は時を経て、白髪やシワも増えてやや老け込んではいるものの、すぐにじいやだとわかった。
となると、隣に立つのはメロスリア王子か。
5歳の頃の初々しさは消えて、身長は伸び、顔は凛々しくなっている。
綺麗なブロンドの髪は少し長くなり肩につかないギリギリの長さになっている。
巻き癖も以前より緩くなっているようだ。
はっきりとしたお顔立ちになり、意志の強い目元は相変わらずきれいなオリーブ色の瞳だ。
纏う衣服は、黒いマントと下からはエメラルドグリーンのズボンが覗いている。
5歳の時は可愛らしい印象だったが、幼さはまだ少し残るものの、当時よりずっと大人びて美しくなられた。
「ご立派になられて…」
路地から覗いていると、ふとじいやがこちらを向いた。
慌てて身を引き隠れた。
メロスリア王子は以前は5歳だったので、恐らく覚えていないだろうが、じいやは覚えているかもしれない。
あれだけ話し込んだし、こんな奇天烈な女、なかなかいないだろうから。
でも会ってしまったら。
私は当時のままの姿で、当時のままの衣装で、その変わらない姿を怪しまれるに違いない。
ありのままを言っても到底信じられないだろう。
しかし前は王子と共に行動をしていたが、今回は王もいるしそう上手くはいかないだろう。
「どうしたもんかな…」
「お悩み事でしょうか?」
「ぎゃっ」
思わず変な声が出てしまった。
声がする方を見ると、なんとじいやが一人で立っている。
「びびびっくりした…」
「お久しぶりですね。
ヒビス様」
「覚えてらしたんですね…」
「ええ。ヒビス様は全然お変わりないですね」
「ははは…」
返す言葉もない。
目の奥が笑ってないですよ、じいや。
「少しお話しませんか?
王子は王と先にランチへ出かけました。
私たちも食べながら少し話しませんか?」
「…はい。
あ、後で合流できますか?」
「もちろんですとも」
「ありがとうございます」
そのような会話をしながら、広場の方に出た。
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