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ベンチに腰掛けていると、じいやがサンドイッチとコーヒーを2つずつ買ってきてくれた。
「何から何まですみません」
「いいえ、わたくしは再びヒビス様とお話できる日を待ち望んでいましたから。
あの日、とっても大変だったんですよ?
ヒビス様がいないと泣きわめく王子を一晩中宥めて、あくる日からもヒビス様捜索につき合わされて。
いくら説明しても納得してもらえず」
「あああ、すみませんすみません。
まさかそんなことになっていようとは」
私からしたら全てがつい先程までの出来事で、その後に私のいない時間に詰まっていると思うと不思議な感覚になる。
「王子にとって、あの日はとても楽しく、特別な1日になっていたんですよ。
もちろん、私にとっても」
そう言うとじいやはウインクしてみせた。
「そんなの、私にとっても、ずっと忘れられない日です…」
目を閉じて、あの日を思い返した。
長い一日だったけれど、あっという間で、使命を忘れてしまいたいくらい楽しかった。
じいやがぱちんと手を叩いた。
「さぁ、まずはご飯食べましょうか?
腹が減っては戦はできぬと祖母がよく言っておりましたし」
「ふふ、そうですね。
いただきます」
ハード系のパンにハムとチーズが挟まったシンプルなものだが、パンはサクッとしていて、小麦の香ばしい香りがした。
「美味しいですね!」
「そうでしょう。
ここは海の近くですが、ヘリアンサスは元々畜産と小麦の国です。」
「父もヘリアンサスのパンや牛乳はとっても美味しいんだと自慢していました」
父の誇らしげな顔が頭に浮かんだ。
結局、ヘリアンサスに来たのは王子に会いに来たのが初めてだったな。
「へぇ、お父様は今どちらに?」
「もう、亡くなりました」
「それは…失礼いたしました。
まだお若かったのではないですか?
何で亡くなられたのか、聞いてもいいですか?」
「…戦争です」
「…今、国は平和条約を結び、戦争は一旦終結しています。
戦争をしているところはないはずです。
あなた様は一体、どこから来たのですか?」
じいやの目が私を射抜くように見つめてきた。
「現れ方も摩訶不思議。
ここ数年でだいぶ変わりましたが、当時ほとんどコンバラリヤとの交流はなく、あなた様のような人が現れたらすぐに噂になったはずです。
ましてメロスリア王子のことも初見でわかりましたし、王子が狙われたことも一番に気づかれました。
そして今、あなたは当時と変わらぬお姿で現れました。
ヒビス様、あなたは一体何者なんですか?」
ここまで言われると、もう誤魔化せないだろう。
じいやは口もかたそうだから、言っても大丈夫だろうか。
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