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うっかり見とれていたが、男の子の視線に気づき慌ててしゃがみこんで、男の子と目線を合わせた。
透き通るようなオリーブ色の瞳に、私の姿が写り込んだ。
男の子の姿には見覚えがあった。
こんなにもまっすぐな綺麗な瞳で、あなたは未来を見ていたのですね。
「はい、初めてです。メロスリア王子」
「お姉さん、お名前は?」
「ヒビスと申します」
「ヒビスはどこから来たの?」
「ずっと遠いところから来ました。
メロスリア王子のこの国は、とても素敵なところですね」
「そうでしょう?
お父様が言ってたんだ。
この国がこんなに美しいのは、この国の民たちの心が綺麗だからだって。
だから、ぼくも人にやさしくなる!」
誇らしげに言うその姿は、幼いのに、堂々としていて格好良くて、将来の王としての姿が透けて見えるような気がした。
「ご立派な心がけです。」
「そうだ!
僕がヒビスにこの国を案内してあげる!」
そう言うやいなや、メロスリア王子は私の手を握り、歩きだそうとした。
すると遠くから王子の名前を呼ぶものが現れた。
「王子…!!どこに行っていたのですか!
え、誰ですか!その女性は」
息を荒げながら、近づいてくる男性は制服に身をつつみ、おそらく王子の側近、というか子守役なのだろう。
60を超えていると思われる男性は、ひょろひょろで今にも倒れそうな様子だった。
シルバーヘアは所々黒髪混じりで、オリーブ色の瞳はどことなく茶色く染まっているような気がする。
彼は隣に立つ私の姿を目に留めた途端、明らかな敵意を向けてきた。
当然だろう。
顔も髪の色も、この国の特徴とは違う。
そして何より、身にまとっているのはあちこちが破れて、すっかり汚れてしまった洋服。
顔は土埃にまみれて、むき出しの肌にはいくつもの傷がついていた。
やってきた男性は、普段はお世話係なのだろうが、王子が危険に晒された時は身を呈して守ろうというような強い気迫が感じられた。
「王子、その女性はどなたですか」
低い声で、男性が問いかける。
腰元に差してある物騒なものを抜いてはいないものの、こちらの動き次第でいつでも殺されてしまうだろう。
「ヒビスだよ。遠くから来たんだって。
今から案内するの!」
「なりません。
どこの誰ともわからないのに、王子に何かあったら困ります」
「じいやのケチ!
困った人には優しくしなさいでしょ!
じいやが言ったんだよ!」
「ぐぅっ…し、しかし…」
「嘘つき」
「ぅ゙…、じゃあ、じいやもついていきます」
じいやと呼ばれた男性は、観念したように両手を挙げて、こちらに近づいてくる。
メロスリア王子は勝ち誇った笑みを浮かべて、こちらを見つめてくる。
「じゃあ行こうか」
満面の笑みを浮かべて、私の手を引いていく。
可愛すぎる。
天使のほほえみを見せられたら、私は従うしかないじゃない。
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