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しかし、大人しくついていこうとした私の肩を、じいやがぐっと押さえつけた。
「お待ち下さい。その格好で行かせることはできません。
一旦馬車にお乗りください」
有無を言わせぬ口調で言われて、近くに止めてあった馬車に乗り込んだ。
白い馬車には泥一つついておらず、全体に金の装飾が施されており、素人目に見てもかなりの職人が手掛けたもののようだった。
馬もとても毛並みがよく艶もあり、しっかり手入れされていることが伺えた。
中はビロードの椅子になっており、大きなカバンが一つ置かれていた。
そのあとからメロスリア王子、じいやが乗り込んできて、車体が揺れた。
「ヒビス、怪我してるから治さなきゃってじいやが。
ぼく、とっておきの魔法知ってるよ!
いたいのいたいの、とんでけ〜!」
子どもらしい言葉に思わず笑みが溢れた。
それで痛みがなくなることはないけれど、つい昨日までの殺伐とした生活で失われていた温かさに触れて、気がつくと涙が出ていた。
「え!いたいの!?
効かなかったのかな?
いたいのいたいの、とんでけ〜!とんでけ〜!」
私が泣いている様子を見た王子は、再び魔法をかけてくれる。
温かなその魔法は、私の心を徐々に溶かしていく。
「ううん、ありがとうございます。
すっかり痛くなくなりました」
「じゃあなんで泣いてるの?」
「王子の魔法が、とっても優しかったからです。
ありがとうございます」
王子は照れたように笑い、私の隣に腰掛けた。
じいやは何も言わず、かばんから取り出した道具で応急処置を手際よく済ませてくれた。
「本当にありがとうございます」
「お礼は王子に言ってください。
私は王子のお手伝いをしてさしあげただけのこと。
最後にこの服に着替えてください」
そう言うと、じいやは一着のワンピースを私に手渡して、王子と一緒に馬車を出ていった。
私は久しく見ていないほど綺麗なドレス。
一人になり、もったいないなと思いながらも、急いで着替えようと服を脱いだ。
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