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もらったものを馬車に預けると、メロスリア王子は再び私の手を引き、歩き始めました。
「お店を抜けると、ぼくのとっておきの場所があるんだ!」
王子の足取りは軽い。
狭い道を通り抜け進んでいくため、私も必死になって駆け足になっていた。
建物が並んでいた通りから路地に入り、くねくねと先へ進んでいく。
いくつもの分岐を経て、いよいよ帰り道がわからなくなってきた頃、開けた場所へと出た。
頭上に広いがる雲一つない青空。
その下には水面に空の色が映り込んだ、とても大きな湖が広がっていた。
水は透き通り、水底が見えており、何匹もの魚が悠々と泳いでいた。
池の周りには草木が自然のまま、手入れされずに残っている。
足を踏み入れるとふわりと草木や土の香りがした。
「ここはぼくの秘密の場所なんだ!
誰も来ないから。」
王子も横で思い切り息を吸い込んで、吐き出した。
「とっても素敵な場所ですね。
私は教えていただいて大丈夫だったんでしょうか?」
「ヒビスは遠くからせっかく来てくれたんだもん。
でも他の人にはナイショだよ!」
王子は口元で人差し指を立てて、しーっと言うと、急に走り出した。
繋いでいた手はいつの間にか離されていた。
呆気にとられて見ていると、王子は草の中へと顔面からダイブしていた。
「王子!?」
驚いて駆け寄ると、王子は仰向けになって笑い出した。
泥をつけてケタケタと笑うその姿は、5歳児らしいものだった。
「だ、大丈夫ですか…?」
「いつものルーティンなのです」
「そうなんですか?」
「ここなら、誰にも見られませんので」
皆まで言わずとも理解した。
王子とは、そういう役目なのだ。
人の上に立つということは、時には自分を隠していかなければならない。
そう思うと、より一層今のお姿が愛おしく思われた。
「ヒビス!こっち来て!」
「はい、」
寝転がっている王子の隣まで来て、しゃがみ込もうと腰をかがめた。
するといきなり手を掴まれて、バランスを崩して王子の上に覆いかぶさるように倒れ込んだ。
慌てて手足を付き、王子を潰さないようにしたが、衝撃を完全に抑えきることはできなかった。
半分ほど王子の上に乗った形になり慌てて避けようとした。
「すみません!
王子、大丈夫でし…た…?」
至近距離で視線が交錯した。
私にはないオリーブ色の瞳に吸い込まれそうになる。
すっかり見とれていると、顔が近づいてきて頬にキスをお見舞いされた。
王子は顔を離すと、そのチェリー色の唇をぺろりとなめて、一瞬口元が妖艶に笑った。
「え…、えっ」
私は混乱して言葉にならない言葉を発していた。
するとズカズカと近づいてきたじいやが、べりと私と王子を引き剥がした。
「王子、何してるんですか」
「じいや怖い顔」
「あなたが悪いんでしょう」
「えー、だってヒビスとってもきれいなんだもん。
目は茶色だし、髪は真っ黒だし。」
「違う国から来たのですから、違うのは当然です。
それとこれとは話が違います。
ヒビス様に謝りなさい」
「ちぇー、ごめんなさい」
メロスリア王子はペコリと頭を下げると、じいやはため息をついた。
顔をあげた王子と目が合うと、にっこりと満面の笑みを浮かべていた。
あ、これは反省してないな。
一瞬見えた5歳児と思えない色気にあてられたのか、耳まで赤く染まり恥ずかしくなってそっぽを向いた。
男性経験は数少なく、大人なってもにこんなことでドギマギしている自分が恥ずかしかった。
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