5years old

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しばらく湖を見ながら、生き物のことや、この国の食べ物の話などを聞いていた。 王子は先程まで街中で見せていた表情とは違い、幼い顔でコロコロと表情を変えながら楽しそうに話していた。 その楽しそうな様子にすっかり私も引き込まれてしまい、楽しい時間を過ごした。 火照りがすっかり引いてきた頃、あたりは日が落ちて夕方になっていた。 夕闇は、人の姿を隠す。 「王子、そろそろ帰りましょうか」 「そうだな」 王子が立ち上がろうとしたとき、私の耳に身に着けていた白い丸いイヤリングが大きく揺れた。 イヤリングは危険を察知すると揺れる仕組みになっている。 慌てて周囲をみまわした。 オレンジ色に染まる湖。 向こう岸。 その周りを生い茂る草木。 入口の小道。 人の影はない。 どこだ。どこにいる。 王子とじいやがこちらを不思議そうに見つめている。 「どうしたんだ、ヒビス」 その時湖面がきらりと光った。 そこに映り込んでいたのは、弓矢のようなもの。 場所は… 「…上だ!」 影は、小道の左側の建物の屋上。 「王子…!」 隣にいた王子を抱きかかえて、横に転がる。 すると先程までいたところに、刺さった矢が横目に見えた。 「だれだ!」 じいやが叫ぶ。 屋上からロープで数名下りてくる姿が見えた。 小道も塞がれている。 「ヒビス様、王子を連れて逃げてください」 そう言うと、じいやは頭上に向かって何かを投げた。 それは頭上で爆発して、空高く花火があがった。 きらきらと光る花火を尻目に、私は王子を抱えて走り出した。 とりあえず遠くまで。 湖沿いに走っていると、後ろの方から男たちが追いかけてくるのが遠目に見えた。 じいやが追手を抑えてくれているのか、それともやられてしまったのかわからない。 徐々に追手との距離は詰まってくる。 大きな木を超えたあたりで、王子が言った。 「湖に飛び込んで!あの岩を目指して」 「え!」 湖の中、数メートル先にたしかに岩が見える。 「大丈夫だから。ぼくを信じて」 追ってはすぐそこまで迫っている。 悩んでいる暇はない。 正直泳ぎに自信はないが、一か八か。 「いきますよ…! 捕まっててください」 大きく息を吸い込んで、湖に飛び込んだ。 数メートルが遠いが、無我夢中で泳いだ。 王子は私の体に必死にしがみついている。 少しして、背後で水音がした。 早く、早く着いて…! 岩が目の前に来ると、王子は私にしがみついていた手を離して、私の手を引いて潜り始めた。 「うわっ」 5歳時とは思えない力で引っ張られて、一緒に水中へと潜ると、岩の下に大きな平たい石が見えた。 石は重そうに見えたが、王子が指を添えると横にスライドして、穴がぽっかり空いていた。 その中に引っ張られるまま入っていく。 王子はスイスイと泳いでいき、私は半ば引っ張られるような形でついて行った。 息継ぎする前に潜ったので、もう息が限界だった。 背後の方で岩がゆっくりと閉まる音が聞こえてきた。
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