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なにかに包まれている感覚があった。
それはふわりと柔らかく、とても心地が良い。
いつまでもこのまま、丸まっていたい。
バタバタと人が走り回る音がする。
目覚めたくない、そう思ってもあまりの騒がしさに自然と覚醒してしまった。
重たい瞼を開くと、見覚えのない天井。
手足に力をいれると、問題なく動かせた。
体をゆっくり起こすと、そこは15畳ほどの個室だった。
中央にベッドがあり、テーブルと椅子が一組だけのシンプルな部屋。
窓が一つあるが、外は暗く時間はわからない。
衣服はいつの間にかオフホワイトの部屋着のようなものに変わっている。
音の正体は扉の向こうのようだ。
ベッドから降りてスリッパを履く。
伸びをすると体がガチガチになっていたのか、ボキボキと音がなった。
唯一あった小窓に近づいて外を見ると、暗闇のなか、いくつかの明かりが走り回っている様子が見えた。
ぼーっとしたまだ覚醒しきっていない頭で外を眺めていると、どこかからノックの音が聞こえてきた。
「ヒビス様、お目覚めでしょうか?」
ノックの音に続き、扉の方から聞き覚えのある声がした。
「 ぁぃ」
返事をしようとしたが、声が掠れてでない。
慌てて扉の方へ行こうとすると、「失礼します」という声とともにじいやが入ってきた。
じいやは私の姿を目にとめると、明らかに安堵したような表情を見せた。
「目覚めましたか、よかったです。
体調はいかがでしょうか?
お茶、お持ちしましたのでどうぞ」
何から何まで気配りのできる方だ。
会釈だけ返して椅子の方へと向かった。
じいやはテーブルの上に紅茶と羊羹のようなものを載せてくれた。
手を合わせて紅茶をいただく。
ふわりと香るフルーティな香り、癖のなく飲みやすい紅茶。
レモンを絞ってあるのか、わずかに効いた酸味が口の中に染み渡る。
「ありがとうございます。とっても美味しいです」
「それはよかったです」
「あの、王子は」
「メロスリア様もご無事です。
身を挺して守っていただいて、ありがとうございます」
そう言うとじいやは綺麗なお辞儀を見せた。
「よかった…」
とりあえず肩の荷がおりた。
「ヒビス様もどこか痛むところなどございませんか?」
「はい、大丈夫です。
何から何までありがとうございます」
じいやは優しい笑みを見せた。
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