月は見ている

10/17

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 うるさい。もう聞きたくない。誰のためかも分からない『あなたのため』に、もうウンザリだ。噛み締めた歯がギリギリと鳴る。 「私は大学なんてどうでもいい! みんなと一緒に歌いたいだけ!」 「本気で言ってるの? そんなことで人生を棒に振るの?」 「やりたいこともやれない人生に何の意味もないよ! 『あなたのため』っていう大義名分で、結局はお母さんの自己満足じゃん!」  今まで蓋をしていた思いが爆発して、自分でももう止められない。 「お母さんもお父さんも、あなたのことを思って言ってあげてるのに、なんで分からないの!」 「二人とも全然私のことなんか分かってないじゃん! 私は今、後悔したくないの!」  先のことは分からない。進学できなかったら後悔しないかといえば、それも本当のところは分からない。でも、私が今大事にしたいことは、私が決めたい。  言いたいことだけ言って、何か言いかけたお母さんを無視して、部屋に飛び込んだ。身体で塞いだドアの向こうで、お母さんがドアを叩く振動と、私の名前を呼ぶ声が虚しく響いている。お願いだから、今は一人にしてほしい。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加