月は見ている

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 しばらくすると廊下が静かになった。私はゆっくりドアから離れ、日課である腹筋を始めた。腹筋の後は背筋。部活には行けなくても、いつか戻った時にみんなと同じレベルでいたい。    ***  いつものように騒がしい教室で、私は真奈に昨日のことを話した。 「東雲くん、人生二周目なのかな? 言ってることが深いって」 「あー……あゆは知らないのか。東雲くんね……」 「え……」  小中学校が東雲くんと一緒だった真奈は、小声で話してくれた。      部活へ向かう人たちを避けながら、私は昇降口へ向かった。みんなの話し声が弾んでいて羨ましくなる。言いたいことは言ったけど、結局抗えない自分が嫌になり、どんどん自信もなくなる。  階段を降りていたら、踊り場で東雲くんと会った。私は昨日の気まずさがよみがえって、視線を落とした。 「昨日はごめん。言い過ぎた」  驚いて顔を上げたら、向こうも気まずそうに口元を手で隠した。私は真奈の話が脳内でチラついて、首を素早く左右に振った。 「昨日東雲くんに言われて、正直めっちゃショックでさ」 「あー、ほんとごめん!」  手を合わせて一生懸命謝る東雲くんが、ちょっとだけかわいいと思ってしまった。髪がいつもよりうねっている。
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