月は見ている

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 塾に行ってる間も、この後、東雲くんと会うんだと思うと、脳内パニックだ。時計ばかり気になって、授業に全然集中できない。  はやる気持ちを抑えて漕ぎ出した自転車は、ペダルも気持ちもなんだか軽い。海岸に沿って走るけど、月明かりのない海は漆黒の波が広がって、散りばめられた星がよく見えた。  階段付近で人影が見えて、街灯の光が当たるところにいたから、すぐに東雲くんだと分かった。海岸堤防に座ってスマホを見ていたけど、私に気付くと立ち上がった。   「塾おつかれー」  スマホをポケットに入れて、こっちに向かってくる。だんだん近づいてくるたびに、私も少しずつ緊張していく。 「今日、月出てないね」 「そりゃあね、満月過ぎたらだんだん上がるのが遅くなってくるんだよ」 「へー、そうなんだ」  話した感じ、向こうは全然普通だな。なんだよ、私ばっかりドキドキしてんの悔しいな。 「海の近く行きたい。行こう」  私は東雲くんの後ろをついて階段を降りた。目の前でやわらかそうなくせ毛がふわふわ揺れる。  浜に降りると漆黒の海が目の前に広がる。少し風が吹いて、心地良い。波音を全身で受け止めて、深く深く息をする。 「今日、いつもより髪の毛うねってるね」 「湿気が多いとね。今日うねうねなんだよ」
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