38人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
塾に行ってる間も、この後、東雲くんと会うんだと思うと、脳内パニックだ。時計ばかり気になって、授業に全然集中できない。
はやる気持ちを抑えて漕ぎ出した自転車は、ペダルも気持ちもなんだか軽い。海岸に沿って走るけど、月明かりのない海は漆黒の波が広がって、散りばめられた星がよく見えた。
階段付近で人影が見えて、街灯の光が当たるところにいたから、すぐに東雲くんだと分かった。海岸堤防に座ってスマホを見ていたけど、私に気付くと立ち上がった。
「塾おつかれー」
スマホをポケットに入れて、こっちに向かってくる。だんだん近づいてくるたびに、私も少しずつ緊張していく。
「今日、月出てないね」
「そりゃあね、満月過ぎたらだんだん上がるのが遅くなってくるんだよ」
「へー、そうなんだ」
話した感じ、向こうは全然普通だな。なんだよ、私ばっかりドキドキしてんの悔しいな。
「海の近く行きたい。行こう」
私は東雲くんの後ろをついて階段を降りた。目の前でやわらかそうなくせ毛がふわふわ揺れる。
浜に降りると漆黒の海が目の前に広がる。少し風が吹いて、心地良い。波音を全身で受け止めて、深く深く息をする。
「今日、いつもより髪の毛うねってるね」
「湿気が多いとね。今日うねうねなんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!