月は見ている

14/17
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 二人でたわいもない話をして、ふふっと笑う。私の緊張が伝わりませんように。 「オレ、二つ上に姉ちゃんいたんだ」  横顔だったのに少し角度がついて、東雲くんの表情がぼんやりと見えた。月がないから、道路沿いの遠い街灯だけが頼りだ。目もだんだん暗がりに慣れてきた。 「あ、ごめんね。真奈に聞いた。お姉さんのこと」  スポーツ推薦で決まっていた高校入学前に、交通事故で亡くなったって聞いた。 「そっか」  東雲くんは一回深く息をついた。 「姉ちゃんのこともあるからさ、やりたいことできないのって悔しいなって。つい熱くなってきついこと言った。ごめん」  その憂いげな表情に、胸が苦しくなる。ダメだ、勘違いしそうになるよ。 「昨日、東雲くんに言われて、ずっとモヤモヤしてた。そしてお母さんと言い合いになった。言いたいことは言ったけど、喧嘩になっちゃって……」 「うん」 「分かってもらえたかどうかは分からない。でも、ずっと言えなかったからちょっとスッキリした」 「うん」  私が吐き出す言葉を、一つ一つ受け止めてくれる。優しすぎる。止められなくなるよ。 「お母さんが言いたいことも分からなくもないんだ。でも、私は今やりたいことをやりたい」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!