月は見ている

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 どっちが先とかどうでもいいんだけど、彼はお構いなしに私の隣に並んだ。 「ねぇ、夜の海ってなんかいいよね」 「あー、分かる。波の音って癒されるよね」 「西條さんは癒されにきたんだ」 「そう言われるとなんか恥ずかしいな。塾の帰りに月が綺麗だったから寄っただけ」  東雲くんの細くて少しクセのある髪が、夜風に揺れている。学校で見かける彼とは違って、Tシャツにジーンズというラフな格好がなんか新鮮だ。 「東雲くんは何してたの?」 「秘密」  月を背にした彼から、軽い笑い声がもれた。逆光でどんな表情だったかまでは見えなかった。  波の音が私たちの沈黙をごまかしている。遠くでバイクが走りさる音がここまで届いた。 「西條さん、なんでみんなに『あゆ』って呼ばれてるの?」 「え、何、急に」  私の名前が「歩実」だから、真奈ちゃんが「あゆ」って呼んだのが最初だけど。 「だって、『歩実(ふみ)』でしょ、名前」  潮風が私と東雲くんの間を緩やかに吹き抜けた。月の道が海面でキラキラと揺らめいている。 「オレの名前も読みにくいでしょ。よく間違われるから、その都度訂正しないといけないのが、何気にストレスなんだよね」 「わかる! 私なんて一発で『歩実(ふみ)』って呼ばれることないよ」
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