月は見ている

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 私は慌てて立ち去った。急いで戻ろうとするけど、足が砂に埋もれる。早く、早くここからいなくならなくちゃ。『秘密』ってそういうことだったんだ。  階段に辿り着いて一段一段上がりながら、東雲くんの方を振り向いた。向き合って二人は何か話しているようだった。  急なことで脳内は混乱している。息が浅いのは走ったからなのか、びっくりしたからなのかよく分からない。でも、夜に海で二人で会うって、そういうことだよね。こんな場面に遭遇するとは思いもよらず、びっくりして胸がドキドキしている。  さざなみと月と男と女。こんなロマンチックなシチュエーション、二人が何もないわけがない。あらぬことばかり考えて、妄想が爆発しそうだ。  上りきったところで靴を片方ずつ脱いだ。逆さにするとたくさんの砂がこぼれ落ちた。靴下を履いているのに、指の間までなんだかざらざらして嫌な気分になった。    ***  例の先輩は、安富(やすとみ)梨央奈(りおな)さんという人だった。合唱部の先輩が同じクラスでよく知ってて教えてもらった。  安富先輩はバド部マネージャーで、東雲くんもバド部だ。確かに恋愛に繋がりやすい関係ではある。
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