月は見ている

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 今日もたまたま体育館横で二人で話しているところに通りかかってしまい、ここで引き返すのも変に思われるし、気まずいと思いながらも通り過ぎようとしたら、運悪く東雲くんとバッチリ目が合ってしまった。 「よっ」  胸元で軽く手を上げてくれたけど、それを見ている安富先輩の前で私はどうしていいのか分からず、頭だけ下げて足早に通り過ぎた。  え、付き合ってるんでしょ? 付き合ってるんだよね? 彼女の前で他の女の子に話しかけたりしたら、彼女としてはあんまりいい気しないんじゃないの? 別に私たちの間に、やましいことは全くないんだけど。  背中の向こうで安富先輩の笑い声が聞こえる。なんか、聞きたくない。自然と足がかけだした。  放課後を知らせるチャイムが容赦なく鳴り響く。ざわつく教室で、私のため息はかき消された。もう部活に行かなくていいんだ。まっすぐ家に帰らなくちゃ。 「西條さん、今日部活は?」  ローファーを手にしたまま振り向くと、リュックを背負った東雲くんがローファーを履こうとしていた。 「確か合唱部だったよね? 去年、文化祭で歌ってたし」  痛いところを突かれた。今はその話題に触れられたくない。私は握る手に力が入った。 「やめた、んだ」
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