月は見ている

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 何も知らないから無理もない。でも、東雲くんのその言葉、きついなぁ。私は大きく息をして、気持ちを切り替えようとした。 「じゃあね、急ぐから」 「あ、うん、またね」  そのまま、東雲くんとは別れたはずだった。でも、私たちの距離はずっと変わらなくて……。 「え、東雲くんもバス?」 「うん、バス通」  だよね、そうなるよね! 「じゃあね」って言ったのに恥ずかしい!  バス停までまだ少し距離がある。歩いているうちにいつの間にか並んで歩くことになって、そうなると自然に話しながら向かうことになる。 「合唱部、続けたかったんじゃない?」  その声が優しくて、心に沁みてしまったから、私も少し気を許してしまった。 「私、お姉ちゃんがいてね……」  優秀なお姉ちゃんに、何をやってもダメな私。お姉ちゃんを超えることなんて絶対に無理だけど、せめて同等レベルの大学に行くよう、親に言われ続けてきた。 「でも私、頭悪いから、勉強しても全然成績良くならないし、部活やめて勉強しろって言われてる。今日も家庭教師来るんだよね」  東雲くんは、私のつまらない話に耳を傾けてくれる。 「みんな、部活続けられていいよね。なんで私は合唱できないんだろうって毎日思うけど、頑張ってもどうにもならないんだよ」
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