月は見ている

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「先生どうだった?」  家庭教師の先生は、優しくて丁寧で分かりやすく教えてくれた。 「良かった。これで成績も上がりそうね」  お母さんの『良かった』にモヤモヤする。何がいいのか分からない。私は大好きな部活にも行けなくて、何のために頑張っているのかも分からなくなりそうなのに。 「私は部活続けたかったよ」  つい、ポロッと口からこぼれてしまった。お母さんは手を止めて振り返った。 「合唱やってたって大学に行けるわけじゃないでしょ。やりたいなら勉強を頑張ればいいだけ。合唱なんて、大学に行ってもできるわよ」  何を言っても伝わらない。私は今、合唱部で頑張りたいのに。 「私は後悔したくない。合唱部続けたい」  勉強を頑張れない私が見つけた、唯一頑張れる場所だから失いたくない。 「正気なの? 進学できなかったら、それこそ後悔するでしょ。後悔してほしくないから、あなたのために言ってるのよ」  呪言のように繰り返されてきた『あなたのため』。私の周りをいつも渦巻いて、何のためか、その意味さえも失う言葉。 「高いお金を払って塾に行かせて、家庭教師まで付けて。あなたのためにここまでしてあげてるのよ。それが分からないわけじゃないでしょ」
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