金木犀の雨

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それは毎年 突然やってくる 鼻先にやってくる 濃厚な秋の香り 車の窓から 街の喧騒の隙間から 突然やってくる 両手いっぱいの 荷物を抱えた買い物中 楽しく飲んだ帰り道 恋人と別れた夜の道 鼻先にやってくる 濃厚な冬の匂い ああ もうすぐ寒くなる モコモコの靴下を ふわふわのカーディガンを 出さなくちゃ 探さなくちゃ だけど…… この花はすぐ逝ってしまう 香り始めたと思ったら あっという間に咲き乱れて すぐに散ってしまう もっと見ていたいのに もっと香ってほしいのに 金平糖みたいに 甘くて可憐な オレンジの 雨… 雨… 雨… ああ、どうか もう少し もう少しだけ 待って 逝かないで 私の足元に 降る… 降る… 降り積もる オレンジの オレンジの オレンジの……
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