03.Réponse d'Alice;アリスの主張

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 彼女の返事を聴くまでもなく、唇を重ねる。返事の最中だったせいか、柔い小さな唇にはほんの少しの隙間があって、吐息も一緒に交わった。残り一ミリぽっちの理性など、簡単に吹き飛んだ。  角度を変えてもう一度。下から掬い上げるように、もう一度。  すると、彼女を支えていた腕は徐々に後ろへ下がっていく。のし掛かる重さのすべてが愛おしかった。「まって、」と言う唇を塞ぎながら、潤んだ瞳が閉じられるその瞬間を見つめると、心臓が一層強く締め付けられた。 「まいはらさ、ん……っ」 「……はい」  初めから飛ばしすぎたか。  ハァッ、と息を漏らす彼女。後ろ首に添えた手から伝わる熱は高温で、反省しながら視線をゆっくり合わせると、トロンと垂れたその瞳に喉が大きく鳴った。余裕のなさと艶っぽさに塗れた上目遣いが、脳天をぐらつかせた。 「大事なことを……言い忘れていて、」  ああ、可愛い。至近距離で動く唇が可愛い。もう全部可愛い。可愛い可愛い可愛い。  チュッ——。  心の声が溢れる寸前、無意識にキスが及ぶ。彼女は呆けた直後、「い、いまはダメですっ」と耳を真っ赤に染め上げた。……可愛い。 「すみません。可愛すぎて止まんない」 「……っ、私の話を、少しは聴いてください!」 「怒っても可愛いんだね」 「だから——……舞原さんのことが、好きです」 「え?」 「ちゃんと言うって決めたのに、言えてなかったから」  言えなかったのは、俺が君の唇を塞いだせい?  そう首を傾げると、彼女は縦にも横にも首を動かさず、ただこちらをじっと見つめて「いじわる……」と息を落とした。
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