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気がつくと私は真っ暗な公園にいた。
街灯のないその小さな公園を照らしているのは空に浮かぶお月様。
なんでここにいるんだろう。
ふわりとかおる甘い香りが鼻先をくすぐる。
それに誘われて歩を進めるとそこにあったのは一つの植物。
「こんばんは」
その声にハッと背後に目を向ける。
ふわりとした茶色の髪にヒラリとしたスカート、涼しそうな薄い長袖の服。
顔は影になってあまり見えないが、育ちの良さそうな女性だ。
「その花、金木犀って言うのよ」
キンモクセイ?
「そう、金木犀の花言葉は『謙虚』」
ドキ
「まるであなたみたいな花ね。小さくて可愛くて、魅力がたくさん詰まってる」
違うよ。だって、私、いじめられてるんだ。チビで汚くて、いなくなったほうがいいんだって。
「そんなの気にしなければいいのよ」
あなたにはわからないよ。
みんなに言われるの、狭い世界だから、未来は広いからとか、けどね、私の世界はこの教室なの、家なの、それが全てなの、私が生きているのは今なの、未来とか知らない広い世界とか私には関係ない。
「そうだよね、あなたの世界ではそれが全てだもんね。浅はかなことを言ってごめんなさい」
その女性はしっかりと頭を下げた。
大人なのに。私なんかに。
そんな大人、初めて見た。
「けどね、どんな世界でも自分が影響を与えることってできるの。挨拶一つで世界は変わるの」
優しい瞳がちらりと見える。
「大丈夫、私なら」
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