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現れたのは
「……ね、猫?」
何が起きているのかわからなかった。いったいどこから忍び込んだのだろう。先頭にはフサフサな真っ黒い毛並みの、そして両脇には短毛で首輪をした、屈強な体のトラ猫。計3匹。すると、ちょこちょこと列を成し、四足歩行で机の前までやってきて――。
「――えー、今日伺いましたのは……」
「へっ⁉︎」
あやうくソントクは椅子ごと後ろに倒れ込むところだった。疲れが溜まっているのか、夢でも見ているのか。目の前の黒猫は、二足でスッと立ち上がり人間の言葉を喋り始めたではないか。
「しゃ、喋った⁉︎」
「喋ったらまずいですかな?」
やけに冷静な口調で答える黒猫。目の前で起きている現象を理解できず、のけぞることしかできないソントク。
「猫と喋るのに慣れていないようでしたら、筆談でも構いませんがね」
「ひ、筆談……」
「それはそれで訳がわからん、といった顔ですのう。まあ無理もないか」
何も言えぬソントクを尻目に、黒猫は肩をすくめる。
「猫と喋るのは初めてですかな」
「は…い……」
「なるほど、猫と暮らした経験などは?」
「その昔……実家で……」
「ということは、今現在はご家族に猫はいないと」
「えーと、犬なら……」
ソントクがそう答えると、黒猫は大きくため息を吐いた。
「なるほど……そうですか。それはそれは、やはり今日ここに来た甲斐があったというものですな。由々しき事態じゃ」
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