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月夜の来訪者
薄暗いオフィスを、窓から差し込むかすかな月明かりがしんと照らしていた。どこか鼻がむず痒い気がして、重い頭を起こすソントク。
「あれ、もうこんな時間か」
時刻を見て、ソントクは驚いた。壁際にある豪勢な大型置き時計。こだわり抜いたオーダーメイドのその針は、ちょうど21時45分に差し掛かっていた。
どうりで部屋が薄暗いわけだ、ソントクは思った。今日は特に忙しい一日だった。ここ最近事業の業績が上向き始めていることもあり、午前中から商談が二つ、その移動中も、内内での資金繰りの指示のため部下と常にチャットでやりとり。やっとオフィスに戻って資料に目を通していたところを、どうやらそのまま眠りに落ちていたらしい。
「まずい、早いところ終わらせなければ」
ソントクは机の上に散乱した資料をまとめながら、そう自分を奮い立たせた。やると決めた仕事は何が何でもその日のうちに終わらせる主義なのである。
――コンコン
その時、小さくドアをノックする音がした。誰なのだろう。ソントクには心当たりがなかった。大抵の場合、社長室のドアをノックするのは秘書である。しかし今日に限って秘書は、「夜遅くまで残るから」と夕方のうちに帰らせていたのだ。そもそも、やけに小さいノック音。聞き間違いの可能性もあるか。
そう考えてソントクが黙っていると、今度は確かな音でコンコン……と。どうやら聞き間違いではないようだ。仕方なく、ソントクは返事をする。
「はい、何用でしょう」
すると、遠慮がちにドアがスッと開く。無言で入ってくるつもりか。失礼なやつだ。ソントクはドアの方をじっと睨み、ドアが開ききって、そのノックの主が現れるのを待つ。
「へっ……」
思わず、気の抜けた声が出た。現れた姿を見て、ソントクは唖然とした。
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