Zくん

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 一歩足を出すたびに、肩にかけたバッグの重みで自分が縮んでいるような気がする。 (仕事のノートパソコンって、なんでこう重たいんだろう。ノートパソコンの中に、物理的に資料が入っているんじゃないかって思えてくる。いやまあ、疲れてるから重たく感じるだけだってことは、私だってわかってる。でも、そんな気持ちになるのよ)  連日の22時まで残業は、心身を削っていくってことがよくわかる。  たぶん、私は見るからに疲れた顔をしているだろう。人目を気にして、背筋を伸ばしてすっすっと歩く気力もわかない。 (今何時だっけ)  条件反射的に空を見た。子どもの頃からの癖だ。時計を見るより、まず空を見る。青空か、夜空か。夜空なら暗さと星座の位置で、なんとなく予想がつく。頭の片隅に、無邪気に空を見上げて歓声を上げていた記憶がかすめていく。わずかな苦さを感じたが、すぐに消し飛んだ。  ビルと家々と電線で囲まれた夜空に、白くぼおっと浮かぶ月が見えた。 (ああ、そうか、今日は満月か・・・)  満月の夜はいい。夜空は紺青で、浮かぶ雲は月明りを受けて青みがかったグレーになって、そして・・・。  彼が現れる――。 「・・・わけないか」  苦笑した。
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