ボロニーズ

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ボロニーズ

「そういえば万城目先生にもお嬢さんが()られますね」  弁護士のシンゴはフォトフレームに入った写真を()した。かなり昔の写真のようだ。まだ娘も小学生のように可愛らしい。長い黒髪がよく似合う美少女だ。 「ええェッ、まァ」  医師の万城目は意味深に視線を逸らせた。 「もしお嬢さんがそのA氏の毒牙に掛かったとしたらどうなさいますか?」 「えッ?」一瞬、彼は弁護士のシンゴを睨んだ。 「さァ、仮定の話しなど興味がないね」  しかしすぐさま万城目はそっぽを向いた。 「そうですか。ところでこの写真に映っているワンちゃんはとても珍しい種類ですね」  ビジュアル系弁護士は写真に映った白いフワフワした犬を指差した。 「え、まァ、そうですねえェ」 「マルチーズでしょうか」石動リオが訊いた。 「いや、似ていますが違いますね」  万城目は苦笑いを浮かべた。ボクもマルチーズだと思っていたが、どうやら違うみたいだ。 「フフゥン、もしかしてこのワンちゃんはイタリアの犬でボロニーズでしょうか」  ビジュアル系弁護士シンゴが微笑んだ。 「はァ、そうですが、よく知ってますね」  万城目も感心したようだ。ボクはボロニーズと言う犬の種類などこの事件に関わるまで聞いたこともなかった。 「ええェ、知り合いでボロニーズを飼っている方がいるもので」  シンゴは犬の写真を見て微笑んだ。 「そうですか……」 「その方がおっしゃるにはらしいですね」 「えッ、まァそうですねえェ」 「実はA氏が居なくなったラブホテル(ラブホ)の部屋から白い毛が見つかりましてねえェ……」  思わせぶりに石動リオ警部補が笑みを浮かべ口を挟んだ。 「えェ……?」万城目も眉をひそめた。 「そうなんですよ。鑑識が調べた結果、どうやら人間の毛ではなかったようです」  ボクもタブレットを操作しながら応えた。 「えッ、人間じゃない?」  医師の万城目は不審な眼差しを向けた。 「ハイ。どうやら犬の毛らしいんです。これが!」 「はァ、犬の毛。なんなんだ。それは?」 「そうですね。それがらしくて。なかなか照合ができませんでした」 「珍しい犬の……?」 「ハイ、日本ではごく少数しか確認出来ていません。イタリアのボロニーズと言う種類の犬だったそうです」 「えェ……?」 「先ほども言いましたがボロニーズは日本では大変珍しく百匹ほどしか確認されておりません。飼っている方もセレブばかりです」  またビジュアル系弁護士シンゴは微笑んだ。 「ううゥ……」 「A氏は犬を飼っておりません。では、どこからそのボロニーズの毛が紛れ込んだのでしょうか?」 「うゥ……、どこから?」 「ええ、もうおわかりですね。鳴かぬなら裁いてくれようホトトギス。天に代わってアナタの罪を」  ビジュアル系弁護士のシンゴは、まるで歌舞伎役者のように見栄を切って医師の万城目を指差した。 「なッ?」 「あなたが、お嬢さんの(かたき)を討って、A氏を殺したんですね」 「ぬうゥッ!」 「被害者のA氏は女装し、クラブでお嬢さんに接近した。お嬢さんはA氏を女性だと勘違いし油断した。そしてA氏は言葉巧みに酒を勧めた。酒の中には睡眠薬が入っていたのでしょう。睡眠薬入りの酒を飲んだお嬢さんは正体不明になった。さらにA氏はお嬢さんを介抱する振りをしてラブホテルへ連れ込んだ。連れ込んだ途端、A氏は豹変しお嬢さんに不同意性行為を迫った。そうですね」 「……」医師は無言でうつ向いた。  
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