欠けた月と満ちた心

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欠けた月と満ちた心

   入れ違いに主人がやってくる。  青年の言ったように吸血鬼の格好をした彼には、頬から首筋にかけて古傷があり、只者(ただもの)ではない雰囲気を醸し出している。 「こんなところにいたのか。毎回探し回る俺の気持ちも考えろよな」  だが、そう言う主人の眼差しは安堵の色を含んだ優しいものであった。 「すみません、ご主人様」 「謝ってる気がしねぇが、まあいい。ところで、あの少年は何だ?さっきまで話してただろ」 「はい。ぼくの初めての友達です」 「お前に友達!?」 「はい。一年に一度、会える友達です」  青年は少年が駆けていったほうを見る。  他人から見たら、単調で無表情。しかし、主人の目には確かに映っていた。彼が子どものように嬉しそうにしている姿が。 「はは、そりゃよかったな」  主人は腕を上げ、青年の頭を優しくなでた。  いきなりのことに青年は驚いて主人を振り返る。  そんな彼に、主人は優しい笑みを返す。 「さて、そろそろ家に帰るぞ」 「はい、ご主人様!」  欠けた月に照らされた、青年の美しい銀色(ぎんしょく)が左右に大きく揺れていた。
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