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初めての友だち
「いきなり何?」
「あなた、ぼくの友達になってくれませんか」
「友達を欲しがるタイプにはみえなかったよ」
「友達になりたいと思ったのは、あなたが初めてです」
「……どうして?」
「ふと思いました。それだけではだめでしょうか」
「ほんとにオレと友達になりたいの?」
「はい」
静寂な夜を思わせる暗く澄んだ瞳が、少年をまっすぐに見つめる。
そんな彼に、少年は口元をほころばせた。
「あはは!あんたほんとに変わってるよ!」
「そうですか?」
「うん、そう。……いいよ。オレもあんたと友達になりたい」
「ありがとうございます」
「実はオレもあんたが初めての友達なんだ」
「お仲間がいるのでは?」
「あいつらは境遇が似てるってだけ。一番近い表現をするなら、仕事仲間って感じかな。友達とは違うよ」
「そうなんですね」
「だから……うれしい。ありがと」
「はい」
少年の頬が染まることはなかったが、明らかに照れていることは見てとれた。
そんな彼の返事に、青年も胸の内に温かなものが広がっていくのを感じていた。
突然、青年の獣耳がピクッ震えた。ここの通りを歩いてくる人物の足音を捉えたのだ。そしてそれは、青年が待っていた人物でもあった。
「迎えが来たみたいだね。あれがあんたの主人?」
「はい。吸血鬼の格好をしていますが、人間です」
青年の尻尾が小さくゆったりと左右に揺れる。それを見た少年はクスクスと笑みをこぼした。
「……あんた、わざと迷子になってるでしょ。主人に心配されたくて」
少年の言葉に、彼は先ほどのようにすぐには答えず、数回瞬きをした。
そして視線を落とし、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……ご主人様は、ぼくがどこにいても必ず迎えに来てくれるんです。それが、とても嬉しくて」
「本当に主人のことが好きなんだね」
「はい。大好きです。……それはそうと、あなたも本当は迷子じゃなくて、ぼくに用があってきたんじゃないですか?」
「あら、ばれてたの。そうだよ。あんたと話がしたくて。行動して正解だったよ」
「そうですか」
「じゃ、オレもう行くね」
「ご主人様に会わないんですか?」
「またの機会にしておくよ。オレもそろそろやることやらないと」
「そうですか。では、一年後を楽しみにしています」
「ああ。またね」
少年は反対側へと駆けていった。軽い足取りで、獲物を探しに駆けていった。
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