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ぼくたちはマサハルのところへ向かった。鳥がどう飛んだのかはわからないけれど、日が暮れて、夜になるとマサハルの家の上に着いた。
ここがマサハルのうちか。さっきと同じように、空の上から家の中が透けて見えた。一見普通の家だけど、中はものすごく散らかっていた。夜なのに大人の姿はない。マサハルは台所でなにかを探しているみたいだったけれど、水道の蛇口に口をつけて水を大量に飲むと部屋に戻った。
「まったく、大人は何やってんだ!」
スバルは怒っていたが、ぼくは複雑な気持ちだった。マサハルはぼくから盗ったお金で食べ物を買っていたのかもしれない。大人がマサハルをいじめ、マサハルがぼくをいじめる。マサハルが一方的に悪いだけなら恨むことができるけど、マサハルもひどい目に合ってるというなら、ぼくは自分の気持ちにどう折り合いをつければいいんだ。
「助けて、って言うんだよ!」
スバルがマサハルに叫んだ。
「困ってる、助けてよ、って。大人は子どものときの気持ちなんか忘れてしまうんだ」
ぼくはスバルを見た。
「ぼくのお母さんは、ぼくのことわかってくれるよ」
その時、ぼくは公園に残してきた母のことを思い出した。
「ぼく、もう帰るよ」
「そうか」
スバルは少し寂しそうに言って、ぼくたちの乗っている鳥を公園まで誘導した。マサハルの家から公園までは同じ学区内だったせいかすぐに着いた。母はベンチに座って肩掛けに包まり、眠っているようだった。
「スバル、ありがとう」
ぼくが鳥の背中から降りてお礼を言うと、スバルは名残惜しそうな顔をした。
「トキオ、明日も遊ぼうよ」
ぼくもスバルとたくさん遊びたい。でも。
「……明日はむり。ぼく学校に行くよ」
「学校? そうか」
スバルはとても寂しそうな、少し傷ついた顔をした。
「明日はむりだけど、また遊ぼう! 今度の土曜の夜はどうかな」
スバルは何も答えずにふうわりと空に浮かび、月の方へ向かった。二羽の鳥たちもその後に続いた。ぼくはスバルが見えなくなるまでずっと空を見ていた。
白い羽根が一枚、空から舞い降りてきて、ぼくはそれを拾って、そっとポケットにしまった。それから母を起こした。
「もう帰ろう、お母さん」
「う……ん? あら私、寝ちゃってた? やだわ、こんなところで」
母は立ち上がって伸びをした。そして、いつものようにぼくの手を握った。
学校でマサハルに会ったら、どうしてお金をとるのか聞こう。そして先生に相談しよう。ぼくのためだけじゃなく、マサハルのためでもある。それから、父と星の話をしよう。いろんな人と話そう。そして、土曜の夜になったらスバルに会いにここに来よう。
数日後、私は約束通り公園でスバルを待ったが、彼は姿を見せなかった。わかっている、あれはきっと夢か何かだ。あんなことが現実に起こるはずがない。
それから年月が過ぎ、私はあの少年のことを忘れていた。ずっと長い間。
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