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勝手口の木戸をくぐり、家の裏手から庭へ回ると、貴子が縁側に正座して月を見上げていた。首筋から背中に向かう、まろやかな曲線をいとおしく思った。
「ただいま」
こちらを向き、お帰りなさいませ、という顔は柔らかな月の光に照らされて淡く輝いていた。縁側から家の内に向けて、貴子の影が伸びている。
「今夜は月が奇麗ね」
少し首を傾けて月を見上げる横顔には、私と同じ、十六年分の年月が刻まれていた。
「ああ、奇麗だな」
庭の隅に生えた待宵草が、月と同じ色で滲むように揺れた。
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