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礼子は二日間最後まで観ていた。
が、あの男子は走らなかった。
諦めかけたその時、あの男子が"給水"のゼッケンをつけて走っている選手に、水を持って走り寄って行く姿が目に飛び込んできた。
飲み終わるとペットボトルを受け取り大声で激励の言葉を掛けてすぐさま道の端にはけて行った。
アナウンサーが「四年生の中村が給水を買って出たと言う事です」と言っていた。
あの男子は中村くんって言うんだ……。
中村くんの陸上人生はチームメイトのために尽くして終わったのだ。
礼子はざわめく気持ちを抑えられず涙が流れた。
あの夜、声を掛けて本当に良かった。
中村くんの、人生に少しだけ触れさせてもらえた気がしたからだ。
それは中村くんの為じゃない。自分の今の弱さに喝をいれる為にもそれがきっかけになると思えたからだ。
礼子は、また今夜も歩きに行く。
今夜は満月。
中村くんもこの月を観てまた走りたくなっているんじゃないのかしら。
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