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さらにあのときーー青パパイヤ女は、よくわからないことを私に向かって言っていた。
確か、纏、がどうとかーー。
そしてもう一つ、あんたの匂いは覚えた、今度殺しに行く、という言葉もだ。それが次の会合を待ってのことなのか、セリアンスロープ特有の「匂い」をもってそうするのかはわからないけど。
「……」
私は不安に駆られて寝返りを打つと、頭からかぶっていた布団を引き剥がした。とても寝ていられるような状態じゃない。
いずれにせよ、これまでの経験で言えるのは、怯えきってひたすらじっと「待ち」の状態でいると、きっとロクなことにはならない、ということだ。
だったらもう、こうなったら、再度こちらから出向いてやった方がいい。
それにーー。
私はベッドから起きると、クローゼットの扉を開け、中に保管してあるゴボウを一本抜き取り、暗闇の中でヒョウ! と音を立てて振り下ろした。
同い年の女にあれだけいいように暴力を振るわれて、おまけにバカにもされ、内心不愉快にも思っていたのだ。
同じくらい仕返ししてやってもーーきっとバチは当たらないだろう。
翌日、私は近所の病院に行って肩の患部を診てもらった。骨折やヒビが入っている様子はないと言われて、少し安心した。
湿布を貼ってもらって帰ってくると、あらためて、開催される予定の「スプレーガール」のライブの日程を確かめてみた。
見ると残りわずかになっていたけど、チケットがまだ若干残っている。
私は、そのチケットを一枚購入した。
あの青パパイヤ女がいったいどんな音楽をやっているのか、一度聴いてみてもいいんじゃないか、と思ったのだ。そしてなにより、あの女についての情報を得られるきっかけにもなるだろう。
「スプレーガール」のライブ当日は、定時に仕事を終えるようにして、その足で下北の「シェルター」に向かった。
会場には、予想していたとおり、長い列ができていた。チケットもソールドアウトしたらしい。自分と同じ年の女の子がそのような成功をしているのを知ると、多少の焦り、そしてうっすらとした嫉妬を感じないでもない。
さすがに近くの「オオゼキ」で買ったゴボウをカバンにさした状態でライブを観るのは抵抗があったので、手縫いの花柄模様の「ゴボウカバー」に入れたゴボウを、折れたとき用に二本、カバンに持参してきていた。
そうやって黙ってじっと列にならんでいると、その五、六人先に、見覚えのある後頭部と背中があった。
ハッとして私は、一瞬息を飲んだ。その驚きが背後から伝わってしまったのかーーその人はこちらをチラリと振り向いて眺めると、ギョッとした顔をした。
……淳だった。
淳は私を認めると、すぐにまた前を向いて、手にしたスマホに目をやった。それから二度と背後を見るまいと、体を強張らせている。
私はその仕草にショックを受けていた。
ようやく会場に入ると、しばらくしてSEが流れ出し、「スプレーガール」の面々が姿を現して、唐突に演奏が始まった。
満員の観客の熱気の中、爆音でライブは進んでいく。ベース、ドラム、ギターボーカルのシンプルなスタイルだ。この手の音楽は「パンク」っていうのか「オルタナ」っていうのか、私には正直よくわからない。
会場のお客さんは男女半々くらいの割合で、もうノリにノッていた。私は後方の壁際でジッと眺めていたが、ステージ上で青パパイヤ女が演奏する音楽よりも何よりも、それをうっとりとした表情で眺めている淳のことが、気になって仕方がなかった。
二回のアンコールも含めたライブが終了し、汗だくで会場を出て帰路につこうとする観客の中に混ざりこんでいる淳を追いかけると、私は後ろから声をかけた。
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