青パパイヤの衝撃、の巻

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 殺そうよ、そんな声が聞こえた。 「ちょっと待って」  律子が言った。 「少し、気になることがあるんだ」 「何よそれ。どうするの」 「家に、連れてこう」 「……家に?」 「うん、お願い」  仕方なく、といった様子で、女が私の体をヒョイっと持ち上げ、その肩に担いだ。 「こいつのカバンはどうする?」 「証拠になると厄介だ。持っていく」  その瞬間、私は気を失っていた。      ◾️  重い鈍痛とともに目を覚ますと、見知らぬ部屋の天井が見えた。  ハッとして起き上がろうとすると、息苦しさとともに激しく後ろに引っ張られて、もう一度倒れ込んでしまう。  妙に思って顎を引いて見ると、をつけられていた。 「目が覚めた?」  見ると両手首も、革製の器具で拘束されていた。足首も、幅がその倍以上もある、まるでコンブのような器具でしっかりと固定されてある。 「なっ、何これ」  と、リビングの奥から、巨漢の女が姿を現すと、キッチンで洗い物を始めた。履いているピッタリとした黒デニムの尻ポケットには、ドラムのスティックが差し込まれてある。 「言っとくけど、私も律子も、ゴボウが大っ嫌いだからね。この家には、一本もないよ」  そう言って笑った女の手前のテーブルには、これみよがしに巨大なパイナップルと、鮮やかな色の青パパイヤが置かれてある。 「……私を、どうするつもり?」  聞くとパイナップル女はまた笑って、 「そんなの律子に聞きなよ。私はあんたなんて、ただのだと思うけどねーー」  耳をすますと、廊下の先の方からシャワーの音が聞こえていた。やがてそれが止まると、しばらくして頭をバスタオルで拭きながら、青パパイヤ女の律子が姿を現した。  真っ赤な下着姿で、そのグラマーなスタイルの体が上気している。  私は突発的に、淳のことを思い出していた。 「何話してたの」  律子は首にバスタオルをかけ、水色の古めかしいデザインの大きな冷蔵庫を開けると、中から黒ラベルを一本取り出してプルトップを開け、一口啜った。肌が白人女性のように白いので、赤のレースのついた派手な下着が余計に鮮やかに見える。  右肩に、私のつけた赤い傷痕がついていた。 「あんたなんて、ただのだよ、って言ってたの」  ボブに切り揃えた多い髪を掻き上げながら、パイナップル女は言った。洗い終えたフライパンを布巾で拭い、キッチンの壁のフックにかける。 「(つづみ)はね、量産型の女が大っ嫌いなんだよ。もう、二人殺してる」 「こっーー」  パイナップルで思いっきり殴ったら、動かなくなっただけだよ、とパイナップル女の鼓は言った。 「あ、あなたたち、そんなことしてーー」 「なにあんた、WOAの説明聞いてないの?」  鼓も律子と同じく冷蔵庫を開けると、黒ラベルを取り出してプルトップを開け、律子と乾杯をした。 「だいたい、ウチの大事なリードボーカルにトドメを刺そうとしたあんたに、そんなこと言われたかないね」 「トッ、トドメ?」
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