青パパイヤの衝撃、の巻

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 ナス女の姿は見えなかった。でもたぶんだけど、このブリーフィング、というのは、きっと初めてこれに参加する人間が、最初に出席するものなんだと思う。そのへんの説明も、ナス女は何もしてくれていない。  ていうか、そもそもーー私は、光量の落ち始めている蛍光灯に照らされた陰気な部屋の中をひとしきり見回すと、小さくため息をつきながら思った。  ……こんな訳のわからない場所に来る必要なんて、やっぱりなかったんじゃないだろうか。   それでも、必死に考えたあげくに結局来ることにしたのはーーいや、来ざるを得なかったのはーーただひとえに、次またいつ、ナス女のような刺客に襲われるか、わかったものではないからだ。  ようするに、彼女たちは私の言いぶんなんてはなから聞いてくれないわけでーーそうである以上は、イヤでも自分からそこに巻き込まれていくしか、他に方法はないように思った。  部屋の中の、一番扉に近い場所に座っている私は、前に座っている二人の女性の背中をじっと眺めた。二人とも、妙に覇気なく背を丸め、さっきからただ一心にスマホを眺めてる。  私と同年齢か、それより若干若いくらいだろうか。一人は丈の短い白Tシャツを着て、水色の小型扇風機で顔に風をあてている。もう一人は、空調は効いているとはいえ、この暑いのに黒パーカーのフードを頭から被っていて、紫色に染めた髪がそこからのぞいている。  表情は、二人ともわからない。ただ、その二人に共通して言えることはーーとにかく覇気、というか、生気のようなものが感じられない、ということだった。  この子たちが、いったいどのような判断で、そしてどのような逡巡を抱えてーー? この場に来たのかは想像するしかないけど、彼女たちもまた、この私のように、ネギ女や山芋女やナス女に襲われる、という経験をへてきたのだろうか。  そんなことを、ただひたすら頭の中で考えていると、背後の扉が開いて、さっきと同じ格好をした別の女性が、手にクリアファイルに入った用紙を持って静かに入室してきた。  そして、それらを私たち三人の前に置くと、ホワイトボードの前に立った。  配られた紙には、ワードで作成したような、ひどくあっさりとした文書がのっていた。そしてその文章の先頭には、大きなフォントサイズで、  「女同士で殺しあってください」  と書かれてあった。  その、シンプル極まりない文言が、なぜか強烈に不気味で、私は一瞬ゾッとした。そこにはなぜ、そんなことをしなければならないのか、という説明は一切ない。  動揺しながら、前にいる二人を見ても、二人はまったく微動だにせずに、ただ同じように背を丸めながら、その用紙を眺めている。向かって右手に座っている人の小型扇風機の音だけが、ウイーン、と小さく響いている。  ホワイトボードの前に立つ女性は、ただその用紙に書かれた文言を、機械的に最初から読み上げていった。まず、女同士で殺しあってください、と言った後で、いくつか他に記されてある注意事項を続けていく。  ……いわく。次回あなたがたが対戦する相手は、これから行われる本会合で発表される。この会合に参加するのは、登録されたセリアンスロープの約半数でーーしたがって次回の対戦相手と会合で鉢合わせしてじまう、という気づかいはない。  いわく、もし意図的に、その対戦をスルーしようとした場合はーーその者にが課される。  いわく、もし仮に、相手を殺害まで追いやった場合も、ので、何一つ心配はいらない。  ………… 「あっ。あのっ、す、すいません」  私はそう言って、おずおずと手を挙げた。するとその女性は、キッ、と恐ろしいような顔で私を睨みつけると、 「質問は一切受け付けておりません」  とそう言った。向かって左側にいる、黒パーカーの子が、軽くこっちを振り返って、やけにドロンとしたような座った目で、この私を見つめる。その鼻や唇には、銀色のピアスが通っている。
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