青パパイヤの衝撃、の巻

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 そのブリーフィングは、それであっさりと終了してしまった。ではこれから本会合が始まりますので、すぐに会場に移動してください、とその部屋の場所を言うと、係の女性はさっさと退出してしまった。  と、前に座っていた二人が、さっきまでの覇気のない様子とは打って変わってーー妙にキビキビと席を立って、続けて部屋を出ていくのを、私は強い違和感を覚えながら眺めた。  ……その様子からは、にわかに「やる気」、のようなものを、ひしひしと感じたのだ。  すぐにもそのあとに自分も続けば、、という妙な意識が芽生えそうで、私は少し躊躇した。なのでしばらく二人が完全に出ていくのを見送った後で、そのブリーフィングの部屋を出た。  同じフロアのとっつきにあった、本会合の部屋に入ると、さっきの部屋とは違って、そのほぼ倍くらいの縦長の空間が広がっていた。  席の数もほぼ倍、ただ、一つだけ違うのはーーそこにいる女性の数が、想像していたよりもずっと多いことだ。  ザッと見るだけでも、十人くらいはいる。さっきのブリーフィングの二人もいるし、すぐにも目に飛び込んできたのは、あのふざけきったツインテールの後頭部の分け目と、幅広く筋肉質の背中と、「トイレの花子さん」そっくりの服装だ。  山芋女が、そこにいる。  ギョッとした私は、絶対にその視界に入りたくなく(ここに二人とも存在している、ということは、さっきの説明通りならば、彼女が次回の対戦相手ではない、ということを意味はするわけだけど)、正面のホワイトボードから数えて三番目の席に座っている彼女よりもなるべく離れた場所に座りたかった。とはいえ最後尾の四つの席は、もう先客によって奪われている。  さっきの二人の隣にでもそそくさと座って、軽く話しかけて事情を聞いてみようか、などと考えていたとき、私はふと思った。  そういえばーーここにも、あのネギ女はいない、と。  あいつがいない、ということは、もしかしたら次の私の相手になる可能性もある、ということだろうか?  そのことに気がついて、喜んだらいいのかそれとも悲しんだらいいのかわからずに、どこに座ろうかとまだ迷っていると、非常に見覚えのある、あのの後頭部が視界に入った。  私は矢も盾もたまらずに、中央より少し後方に座っている、そのナス女の隣に席を確保すると、素早く腰をおろした。どうも、と声をかけると、一心にスマホを眺めていたナス女は、チラリとこちらを一(べつ)するだけで、またスマホの画面に視線を戻した。  まだ、会合は始まらない様子だった。部屋の中の女性たちは、特に互いに話しあうでもなく、ただじっとその開始を待っている。  私はひとまず、隣にいるナス女に向かって、どうもありがとうございました、と感謝を伝えてみた。 「……なにが」  スマホのタッチパネルに親指を滑らせながら、ナス女は言った。今日もあいかわらず、パリで開催されたコムデギャルソンの新作ショーのランウェイからそのままここ日本の渋谷まで歩いてきた、というカンジの、全身黒の出で立ちだ。もちろん似合ってはいるし、服に着られている、というような印象もない。 「いや、あの、ここまでのいろいろを教えていただいて」  言うと、聞こえるか聞こえないかくらいで鼻で笑った気がした。その意識はさっきから、完全にスマホに向かって吸い込まれているし、なによりその全身から、「お願いだからもう話しかけてくれるな」という黒々としたオーラを発散させているのがわかる。  そりゃ、この私だって、目の前のナス女とのあの恵比寿の路上での、壮絶な戦いの記憶はいまでもありありと頭の中に残っている。  あのときのナス女の、あの目元まで裂けたような大口と、爛々(らんらん)と輝いていたあの妖しい目の光のことも、トラウマレベルで覚えている(同等に比較できるのは、たぶん淳と観た映画「シャイニング」のあの、主人公の作家の奥さんくらいだ)。
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