青パパイヤの衝撃、の巻

7/15
前へ
/15ページ
次へ
 それは当然、この私にもその可能性はあった、ということを意味もするだろう。  ……もし、いまネギ女に会ったなら、私は彼女に何と言うだろうか。 「……」  なんだかまた頭がごちゃごちゃしてきた。  私はソファから立ち上がると、姿見のそばに置いたカバンの中から、例の資料を取り出した。目を通しながら、もう一度ソファに戻る。  次の女はなに女だか知らないが、ネギ女でないことは、その資料の写真からも明らかだ。  ……栗山、律子か。  私は、そうムイシキに一人ごちたあとで、つい苦笑してしまった。  だいたい、この栗山律子、という人物は、いったい何者なのだろうか。  そもそも、この栗山律子さんという人が、栗山律子さんであることに、私はなんの異論もない。まったくなんの問題もないし、べつにそのことと私の人生はなんの関係もないはずだ。  どうぞよろしく栗山律子さんでいていただいて全然構わないし、私、大貫敦子はすべからく大貫敦子であらせていただければそれでいいのだ。  にもかかわらずーーなぜかこれから、私はこの栗山律子、という女性と強制的に関わりを持たねばならないのらしい。  添えられたスナップ風の写真をあらためて見る。一目見て、おそらく「バンギャ」じゃないのかな、と想像した。  なんか目つきが異様に鋭くてーーいわゆる普通の女子とは違うフンイキがある。  カンタンな履歴がついているのを見ると、確かに現在、バンド活動中であるらしい。  バンド名は、「スプレーガール」。  さっそくスマホで検索をかけてみると、すぐに出てきた。文面を流し読みするだけでも、最近けっこう人気が出てきているバンドな様子が伝わってくる。  私はもう一度、顔写真に目をやった。髪はロングの金髪で、真っ赤な口紅にブラウンの強めのアイメイク。  いかにも私、才能ありまっせ(ギフテッド)、的なフンイキ、っていうのか。  ……でもさあ。 「……だから、なんなの」  悪かったね、ただのしがないハケン社員で。  クドイようだけど、この人に才能があろうがなかろうが、そんなことは私の知ったことではない。べつに勝手に元気で楽しくやってくれればそれでいいので、同じようにこの私も放っておいてくれないだろうか。 「……住所は、どこなんだろ」  見ると、下北沢だった。そして有名な下北のとあるライブハウスを、その活動拠点にしてもいるらしい。  下北といえば、淳の住む町だ。 「……」  私がこの同い年の栗山律子さんの資料を持っている、ということは、これもクドイようだけど、自分からこの人の元に出向いて行かなければならない、ということを意味する。  この前のーーナス女のように。  もし、これを黙ってやり過ごせば、私には「重大なペナルティ」が課される。  ……重大なペナルティ、っていったいなんなんだろ。  ヘンな想像が瞬時にいろいろ湧いて、すぐにまた怖くなってくる。頭を振って考えないようにする。  なにせ、相手を殺したってかまわない、などと平気で言えちゃうような人たちなのだ。そんなまさか、とかってスルーしがたい何かをついつい感じてしまう。  とはいえ、正直自分は、お前はセリアンスロープだ、と一方的に言われただけで、べつにその自覚があるわけでもないし、この女を襲いたい、と願っているわけでもない。  彼女(52番、と資料には記載してあった)になんの恨みがあるわけでもないのだから、いきなりゴボウ振り回して戦闘モードでいく必要性も全然感じない。  もう一度、資料の写真をよく見てみる。確かに顔つきは鋭いけど、気の悪そうな印象は受けなかった。  だったら、あくまで友好的に、これこれこういう理由でいま、私はこんなワケのわからないことに巻き込まれてしまっていますがと、真摯に話しかければ、わかってもらえるんじゃないだろうか。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加