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case 1 玉木佳寿
ヤバい、ヤバい、ギリギリ過ぎっ…
“ドアが閉まりま〜す。ご注意下さ〜い”
朝の通勤時にいる駅員さんのハンズフリー拡声器の声が終わったあとで、思い切り足を伸ばして車両内の床につま先だけ掛けると、10cmくらいしかないように見えるスペースを目掛けて体を移動させる。
セーフ…我ながら厚かましく…いやいや…よく乗車率188%の電車に適応出来るようになったよね。
さすが30歳。そう、わたくし玉木佳寿は先月また大きくなりました。
そして今朝、寝坊した訳では無い。
30歳になる半年前から始めた断捨離。不必要な物をフリマサイトに出品している。私が利用しているのは、国内最大規模の“メルカロン”だ。
昨夜遅くに売れたピアスを駅前のコンビニから発送して来たからギリギリになっただけ。
ふぅ~一駅だけ我慢すれば高校生が降りるので、車両内を見る余裕が出来る。
いた…今朝も素敵。おはようございます…ドア付近から少し中へ移動してつり革に掴まると、今日も麗しい…名前も知らない彼の隣に立った。
隣になることは毎朝ではないけど、車両内では毎朝見る彼。下車駅も同じだけれど、そこまでしか知らない彼。
今日はいい日になりそうだ。
「おはようございます」
駅から2分のところにある私立大学のサテライトキャンパスの最上階事務室に着くと、真っ先にスマホを出してさっきのピアスの発送通知を送る。それからパソコンを立ち上げて“出勤”をポチッ…よし、余裕だね。
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