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 誠一の家庭は母子家庭で、女でひとつで育てられた。  母親は誠一に高校を出たら、どこでもいいから働くようにと釘を刺した。  そんな時、母親が一匹の柴犬を飼い始めた。タロウと名付けられた。  母親は誠一よりもタロウを慈しみ、誠一の話も、ろくに聞かなくなった。  誠一は突然の同居犬に、苦々しい思いを抱いた。こいつが来たせいで、誠一は学校でも家でも肩身の狭い思いをしなければならなかった。  犬に嫉妬するなんて、我ながら馬鹿げていると思ったが、その当時の誠一に心の余裕などなかった。  誠一は学校で嫌なことがあると、鎖で繋がれているタロウの水の容器を届かないところに置いたり、箒で叩いたりした。タロウは誠一にとっては、ストレスの捌け口だった。  だから、タロウは誠一を見ると、牙を出して唸った。  そんなある日、タロウは我が家から逃げ出した。首輪がとれていた。  母親は必死になってタロウを探した。だが、タロウは見つからなかった。  母親は誠一がタロウに好くないことをしていることは知っていた。母親は誠一を睨みつけると言った。 「あんた、いつか、タロウに復讐されるよ」
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