化ける理由

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化ける理由

 「おはよう。」  教室の入り口でマサルは声をかけた。  教室にはまだ、殆ど生徒が集まっていない。  「おはよう。」  先生が入ってきて、授業を始める。  ぽつりぽつりと教室の席が埋まっていく。  授業の途中で来た生徒は挨拶はしないで静かに席に着く。  午前中の授業が終わった頃。 「こんちは。」 眠そうにタケシがやってきた。 昼ご飯をモグモグしながらの登校だ。  マサルはタケシをみて、注意する。 「おい!ひげ。出ちゃってるよ。」 「あぁ、飯食ってるとなぁ。気が抜けるんだ。」  タケシは急いでひげを隠した。  タケシはキツネだ。寝坊したらしい。  そう。ここは、化ける動物たちが来る学校。  生きづらくなってしまった野生の動物たちは、大抵夜行性だが、頑張って起きて、人間の先生の授業を受ける。  この学校を無事に卒業できれば、人間の学校に編入できるんだ。  そうすれば、就職もできて、お金が稼げる。  特に、熊のマサルは、どうしても里に下れば人間に迷惑をかけるので、頑張って化けて人間に掛ける迷惑を減らそうとしている。  熊は最近、人間の目の敵になっているから。  でも、山の食べ物が少なくなって我慢できなくなると、どうしても食べ物のある里へ下りてしまう。  人間はとても驚くし、人間にあったマサル達もとても驚くのだが、人間に先に攻撃されると、防御の意味もあって、マサル達もつい手が出てしまう。  この学校は、夜間もやっていて、どうしても昼間起きられない蝙蝠や、ハクビシンなどは夜の授業にやってくる。  夜間の先生は、結構生徒が動物なのを知ってはいるが、国が政策としてやっているのを知っているので、時々は 「シッポ。」  とか、注意しながら大目に見てくれている。  人間はどんどん数が減っていて、年寄りが多くなっているので、はたらいてお金を稼いで、税金というものを納めると人間も助かるのだそうだ。  しかし、先生をしているナツコは思うのだ。  野生の動物たちにこんな苦労を強いてまで、人間は上手く政策を行えないのだろうか。  行政のトップにいる人たちは、何を考えているんだろう。と、ナツコ先生は毎日、静かにためいきをつく。 【了】
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