3.

4/4
38人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「もしかしてママも、昔おさじさんにお願いしたことある?」 「えー? ないわよ。自分でミニスカにしてルーズソックスはいてたし。あの頃ネクタイの芯抜いて細くするのが流行りでさ、先輩の」 「だよね」  長くなりそうな昔話を「だよね」で打ち切る。おさじさんに助けてもらいたいような繊細さが、この母にあるわけなかった。馬鹿なことを聞いたと首をすくめた私に、ママが「そういえば、」と言って目をぱちぱちさせた。 「パパは昔、全身真っ黒の制服で授業受けてたことがあったわ」 「なにそれ、闇堕ちしてたってこと?」 「んー、なんかねぇ、この世の全ての光、全ての色を吸収したい、みたいなこと言ってた」 「え、やば。はず」  闇堕ちより恥ずかしい父親の黒歴史を聞き、体の内側が痒くなる。パパがもしこの場にいたら、きっといたたまれなくてトイレに逃げ込んだだろう。大人にだって、中二病だった過去はあるのだ。 「被服室、残してもらえたらいいね」  さっさと夕飯を食べ終えたママが、お風呂を沸かしに席を立つ。なんで大人はしゃべりながらでも早く食べられるのか、いつも不思議だ。 「うん。範囲、広げてみる」  私が言うと、ママは笑顔で振り向いて親指を立てた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!