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「もしかしてママも、昔おさじさんにお願いしたことある?」
「えー? ないわよ。自分でミニスカにしてルーズソックスはいてたし。あの頃ネクタイの芯抜いて細くするのが流行りでさ、先輩の」
「だよね」
長くなりそうな昔話を「だよね」で打ち切る。おさじさんに助けてもらいたいような繊細さが、この母にあるわけなかった。馬鹿なことを聞いたと首をすくめた私に、ママが「そういえば、」と言って目をぱちぱちさせた。
「パパは昔、全身真っ黒の制服で授業受けてたことがあったわ」
「なにそれ、闇堕ちしてたってこと?」
「んー、なんかねぇ、この世の全ての光、全ての色を吸収したい、みたいなこと言ってた」
「え、やば。はず」
闇堕ちより恥ずかしい父親の黒歴史を聞き、体の内側が痒くなる。パパがもしこの場にいたら、きっといたたまれなくてトイレに逃げ込んだだろう。大人にだって、中二病だった過去はあるのだ。
「被服室、残してもらえたらいいね」
さっさと夕飯を食べ終えたママが、お風呂を沸かしに席を立つ。なんで大人はしゃべりながらでも早く食べられるのか、いつも不思議だ。
「うん。範囲、広げてみる」
私が言うと、ママは笑顔で振り向いて親指を立てた。
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