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「あの中学、昔は文藝部の活動が盛んでさ。猫田先輩……今の校長先生と、七森先生と、あと射谷先生も、文藝部員だったんだけど」 「うん」 「ペンネームで署名してーら」 「ええっ!?」  それは、署名としては明らかにルール違反、だけど。 「立場上、署名するのは難しくてもさ。参加したかったんじゃない? みんな、往年の反逆児なもんだから」 「はぁ……」  大人って。大人って、みんなもっとキチンとしてるものじゃないのかな。唖然とした私に構わず、ママは「他にもないかな〜」なんて言いながら、紙をめくっていく。そしてその手がピタリと止まり、真顔でフリーズした。 「なに? どうしたの?」  ママの手は震え、見開いた目がうるんでいく。ただならぬ様子に不安になった私に、ママが紙面の一点を指差した。 「美奈星、見て」  そこにあるのは、お世辞にもきれいとは言えない字で書かれた署名、「笑空古都」。知らない名前だ、そう思ってママの顔を見返す。ママは愛しげに目を細めて、その署名を指先で優しくなでた。 「これ、パパのペンネームよ」  パパの……? でも、パパはもう、いないのに。 「誰かのいたずら?」 「まさか! このミミズがのたくったみたいな字、パパの字に間違いないわ」 「でも……」
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