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1.
教室に32ある机の中で、今朝は私の前の席だけ主人がいなかった。
「おはよ〜2年B組、出席とるぞ〜」
担任の岡屋先生が、いつもの気だるい調子で言う。
「明島〜」
「はぁい」
「浅果〜」
「おいっす」
「出雲〜」
「はい」
あれ? 出雲くん、いるの?
驚いてきょろきょろしたのは、私を含めて数人だ。
「出雲どこだ〜?」
顔を上げた先生に「席にいます」と応えたのは、確かに出雲くんの声。彼の机の上で、黒いペンケースが浮き上がってふらふら揺れている。
「出雲のやつ、昨日ネトゲでミスって凸られてベコベコになっちまって。『消えたい誰にも見られたくない石ころになりたい』って言うから、被服室に連れてったんス」
そう言ったのは、彼の隣席で仲のいい宵宮くんだ。
「あ〜、おさじさんのとこか」
「そっス。で、しばらく体ごと透明にしてもらったらしいっス」
「なるほどね〜」
先生は出雲くんの席をチラ見して、出席簿にシュッと丸を書いた。
「おさじさん」その名前を聞いたクラスメイトたちがそれぞれ納得した顔になって、空席に集中していた視線がばらける。私はむしろ、睨むようにじっと、目の前の椅子を見つめた。
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