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 背もたれの向こうに、机の中に詰め込まれた教科書やノートがしっかり見える。逆に、そこにいるはずの出雲くんの姿は、本当に全く、輪郭さえ見えない。だけどきっと、透明になった彼の制服のポケットには、被服室でおさじさんにもらった小さなスプーンが入っているのだろう。 「出雲そのうち浮上すると思うんで、今はほっといてやってほしいっス」 「しゃ〜ねぇなぁ」 「ゲームでついた傷は、ゲームでしか癒せないっスからね」  宵宮くんがそう言ってニヒルに笑う。先生は呆れ顔で、鼻から息を吐いた。 「カッコいい風に言ってるけどなぁ、お前それネトゲ廃人まっしぐらだからな〜」  宵宮くんが、口を尖らせて肩をすくめる。出雲くんがどんな顔をしているかは見えない。けど、彼が小さく吹き出した音が、聞こえたような気がした。 「オレガチ天才かもしんねぇ! 5キルで銀バッヂ復活! ふぉーー!!」  出雲くんが興奮顔で意味不明なことを叫びながら再び教室に姿を表したのは、それから三日後のことだった。
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