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2.
キュッ、キュッ、キュッ
上履きの底がリノリウムをこする音が、ひと気のない朝の廊下に響く。8時20分、私は被服室のある西校舎から、本校舎に急ぎ足で向かっていた。
早く教室に行かないと、朝学活に遅刻してしまう。けど、行きたくない。クラスメイトにも、部活の仲間にも会いたくない。
「そんな理由で学校休むなんてダメに決まってるでしょ! どうしても気になるんなら、朝一番におさじさんのところへ行ってきなさい」
ママにそう言われたから、誰にも見られないうちにこっそり被服室に行ったのに。
どうしておさじさんは、私を透明にしてくれないの……っ?
西校舎とは別の次元にあるみたいに、渡り廊下を過ぎるとそこには制服姿の人、人、人。私はできるだけ顔を伏せて、2階にある自分の教室までずんずん歩いた。
透明にしてもらえなかったスカートが揺れて、ポケットの中のスプーンが踊る。どんな魔法がかかっているのかは知らないけれど、私の姿が人に見えてるなら何の意味もない。
「大丈夫、大丈夫」
おさじさんはそう言って笑ったけど。
私の切りすぎた前髪は、みんなに見えてるままなんだから……っ!
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