拾肆・武士の矜持

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 業病は男達に背を向けて歩き出す。 「この者らはどうする?」  その背中へ血河が問いかけると、業病は立ち止まる。男達は抱き合って震えながらその答えを待つ。 「別にどうもしないよ、放っておけばいい。……今回の騒動で彼ら野心と企てが明るみになったことだろう。きっと罰は下るさ」  言い終えた丁度その時、城の方から兵を引き連れた身分の高い武士らがやって来る。 「お主ら、話は全て聞き及んでおるぞ! さぁ、立て! 不忠者共め!」  引っ立てられる裏切り者達に見向きもせず、業病は四散を抱き上げる。ぐらりと強い目眩を覚えたのは勿論毒のせいだ。 「ああ、シチ。君は死しても尚、その毒で他人(ひと)を拒むのだね。だが安心してくれたまえ、私は君を拒んだりはしないよ」  夜の城下町を業病は歩きだす。 「そういえば君は私と町でデートをしたいと言っていたね。毒娘である君と医者である私が共に歩くことなど出来るはずもなかったが……君が死んだ今、皮肉にもそれが実現しているよ」  屋外が静かになり、住民達がぽつぽつと外へと出て来る。怒り恨んだ毒娘を慕い尊敬する先生が抱いて歩いている……そのわけの分からない光景にあんぐりと口を開けて誰も何も言えない。 「シチ、こうしていると君と出会った日のことを思い出す。あの日も夏の夜だった……川辺では蛍が飛んでいたね。今夜はどうかな、飛んでいるといいなぁ」  業病は雑木林の庵につくまで動くことも喋ることも出来なくなった四散に朗らかに語り続けるのだった。
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