拾伍・慈愛の癒し手

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「私は結局君が言ってくれる"好き"や"愛してる"を理解することは出来なかった。……だけどね、私は長く生きてきた中で君と過ごした5年間がとても充実していて楽しかった。父性なのか恋愛なのかは分からない。だが私は確かに君が好きだったよ、シチ」  庵にて、業病は膝枕した四散の頭を撫でながら優しく歌うように言った。  しんっと静まり返る室内では亀代(カメヨ)のしゃくり上げる声だけが小さく響いている。 「……さて、では話をしよう血河(チカ)くん」  仕切り直すように言った業病に血河はこくりと頷く。 「先程男達が言ったことを覚えているかな? センジンの存在を誰から聞いたか、彼らはその特徴を上げたわけだが……きっと君と私は同じ人物を思い浮かべていたことだろう」  "白い長い髪で大きな瓶底眼鏡をかけた唐人の男"……それはまさしく── 「……俺達(センジン)を造り出した外つ国(異国)狂科学者(マッドサイエンティスト)」 「そう、徐晴(ジョセイ)殿だ。外的特徴はほぼ一致しているね」  これを聞いて四散の死に項垂れていた八裂(ハチレツ)が少しだけ顔を上げる。 「……なに? チカやせんせーを作ったヤツも不老不死のセンジンってことなワケ?」 「それがよく分からないのだよ」  業病は首を傾げると、目を細め遠い昔へと思いを馳せる。 「徐晴殿は年月の経過と共に確かに老いていっていた。……そうだったよね、血河くん」 「ああ、そうだ。そして女王以上に長寿であった」 「彼と最後に会ったのはおそらく私だろう。彼は国を──女王の築いた耶馬台国(ヤマタイコク)を出て行くと言っていたが、その後どうなったかを知る者はいない」 「んじゃ、後天的に不老不死になったってことかぁ?」  亀代の肩にとまるヤタが囀ずると、血河も業病も難しい顔をする。 「既に人間(ヒト)として生まれた者を不老不死(センジン)には出来ないと言っていたのは徐晴自身だ。現に人間(ヒト)から不老不死(センジン)にされた兵士はいなかった」 「それはつまるところ、センジンの肝はあのにあるからさ。徐晴殿が自国から持ち込んだあの肉塊、あれを加工して出来たのがセンジンだ。……私はね、あの肉塊に心当りがあるよ」  不気味に蠢く肉塊を血河もよく覚えていた。自分の元になったものだとは察していたが、その正体は不明であったものだ。 「昔大養徳國(ヤマトノクニ)にいた頃に書物で読んだのだが、あの肉塊はおそらく"太歳(タイサイ)"だろう」  
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