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「私は結局君が言ってくれる"好き"や"愛してる"を理解することは出来なかった。……だけどね、私は長く生きてきた中で君と過ごした5年間がとても充実していて楽しかった。父性なのか恋愛なのかは分からない。だが私は確かに君が好きだったよ、シチ」
庵にて、業病は膝枕した四散の頭を撫でながら優しく歌うように言った。
しんっと静まり返る室内では亀代のしゃくり上げる声だけが小さく響いている。
「……さて、では話をしよう血河くん」
仕切り直すように言った業病に血河はこくりと頷く。
「先程男達が言ったことを覚えているかな? センジンの存在を誰から聞いたか、彼らはその特徴を上げたわけだが……きっと君と私は同じ人物を思い浮かべていたことだろう」
"白い長い髪で大きな瓶底眼鏡をかけた唐人の男"……それはまさしく──
「……俺達を造り出した外つ国の狂科学者」
「そう、徐晴殿だ。外的特徴はほぼ一致しているね」
これを聞いて四散の死に項垂れていた八裂が少しだけ顔を上げる。
「……なに? チカやせんせーを作ったヤツも不老不死のセンジンってことなワケ?」
「それがよく分からないのだよ」
業病は首を傾げると、目を細め遠い昔へと思いを馳せる。
「徐晴殿は年月の経過と共に確かに老いていっていた。……そうだったよね、血河くん」
「ああ、そうだ。そして女王以上に長寿であった」
「彼と最後に会ったのはおそらく私だろう。彼は国を──女王の築いた耶馬台国を出て行くと言っていたが、その後どうなったかを知る者はいない」
「んじゃ、後天的に不老不死になったってことかぁ?」
亀代の肩にとまるヤタが囀ずると、血河も業病も難しい顔をする。
「既に人間として生まれた者を不老不死には出来ないと言っていたのは徐晴自身だ。現に人間から不老不死にされた兵士はいなかった」
「それはつまるところ、センジンの肝はあの肉塊にあるからさ。徐晴殿が自国から持ち込んだあの肉塊、あれを加工して出来たのがセンジンだ。……私はね、あの肉塊に心当りがあるよ」
不気味に蠢く肉塊を血河もよく覚えていた。自分の元になったものだとは察していたが、その正体は不明であったものだ。
「昔大養徳國にいた頃に書物で読んだのだが、あの肉塊はおそらく"太歳"だろう」
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