拾伍・慈愛の癒し手

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 血河は業病の様子に"嫌な感じ"を覚える。 「……俺に、出来ることならば」  そうは言ったが内容を聞く前から拒絶したい思いが強い。 「ああ、勿論出来るとも。だが手間をかけさせてしまうのは申し訳なく思うよ」  業病は眠る四散に微笑みかけてから言葉を継ぐ。 「四散と亡骸を埋葬してほしいんだ」  血河はぎゅっと左手を握り、ふぅと息を吐いてから口を開く。 「……四散はともかくお前の亡骸とはどういう意味だ、業病」 「どうもこうも、私の心の臓を君にあげよう……いや、託そうということだよ。私にはもう必要ないものだ、君が活用してくれるなら嬉しい」 「死ぬのか、お前は」 「そうだね、そういうことになるね」 「…………俺は──」  血河は俯くと、それはそれはか細い声で呟く。 「人間(ヒト)になりたいが、お前の心の臓を喰らうのは……抵抗がある、」  それは、今まで抱いたことのない思いであった。  目的の為に容赦も遠慮もせず、残骸(ザンガイ)薄幸(ハッコウ)を屠ってきた。……いや、罪悪感の様なものをほんの少しは感じていた。でもそれが"ほんの少し"で済んでいたのは──。 「お前は卑怯だ、業病。なぜ俺の前に悪意を持つ敵として現れなかった? そうであったなら俺はお前を躊躇いなく殺せていたのに……。嫌なヤツだ、お前は本当に嫌なヤツ」  キッと鋭い目で睨みつけると、業病は困ったように笑う。 「血河くん。私は終始、今この瞬間でさえも君の敵でもなければ味方でもない。だから躊躇わないでいい、君は君の望みを果たせ。私は私の望みを果たそう」 「……お前の望みとはなんだ?」 「それは勿論──これからもシチと共にいることさ」  業病の望みを聞いて、血河は血が滲むほど強く唇を噛み締める。そして隣に座る八裂達を横目で見てから、業病へと向き直り言う。 「業病、お前の望みを叶えよう」  その声はわずかに震えていた。 「ありがとう、血河くん。君はやはり優しいね。そんな君に酷なことを頼む私を許してくれたまえ」 「……もう二度と、頼むな」 「ああ、そうするよ」  癒しの異能(チカラ)を持つセンジン、業病。最後まで食えない男だったと血河は思った。
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