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 雑木林の奥にある小川。そのほとりに業病(ゴウビョウ)四散(シチ)の亡骸を埋葬することにした。  庵の壁や床の木材を剥いで急ぎ作った座棺(ざかん)の中では二人が寄り添うように眠っている。 「おやすみなさい、シチちゃんに業病さま」  最後の別れを告げた亀代(カメヨ)が棺の蓋を閉じ、それを石と釘で血河(チカ)八裂(ハチレツ)が固定した。  三人で掘った穴に棺を下ろし、土を被せる。墓石として使えそうな石を運んでその上へと置いて、埋葬は完了する。するとその時、嘴に野花をくわえたヤタが飛んでくる。供え物だ。  最後に手を合わせ、弔いをする。だが、それを終えた後もその場から誰も動けないでいた。どうしても離れ難く、まるで足が地面に縫いつけられたようだ。  そうしている間に西の空が白くなってきて、暗い雑木林にも徐々に光が差し込んで来る。 「……行こう」  血河が口火を切り、墓へと背を向けて歩き始める。それに八裂達が続き始めたその時、ぶわりと蛍が一斉に舞い始めた。思わず一同は足を止める。 「こんな時間に蛍だぁ? 一体どうなってやがる?」  不思議そうに首を傾げるヤタを頭の上に乗せた八裂は、泣き出しそうな顔で笑う。 「せんせーとシチちゃんが、頑張れってオレらのテンションアゲてくれてんのかな? ははっ、超エモい景色じゃん!」  光り輝き飛ぶ蛍に見惚れていた亀代であったが、ふと血河の方へと視線を 向ける。 「……チカさま、泣いていらっしゃるのですか?」  血河の頬に伝う何かが朝日できらりと光っている。  少女に指摘され、黒い男はそれを拭うとぼそりと言う。 「泣いてなどない、これは汗だ。……俺は暑さに弱いからな」  そうして一行は、蛍の乱舞をその終わりまで黙って見つめ続けたのだった。 八ツ裂キ血河(ヤツザキケツガ) 三巻(みつまき)業病(ゴウビョウ)【終】
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