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女が三人の男に囲まれている。
「おい、女。手荒なことをしたくはない、食い物や金子があるならそれを置いて行け」
三人の中で一番年上に見える男が厳かに言うと、大きな籠を抱えた女は震えながらも声を張り上げる。
「嫌よ! どうしてアタシがアタシの物をお前達なんかにくれてやらないといけないのよ! あっちに行け、アタシに近づくな! しっしっ!」
女がまるで犬を追い払うようにすると、男達は顔を見合わせた後に仕方ないとばかりに腰の刀を抜いた。
「じゃじゃ馬め、これで斬られたくはないだろう?」
「お、脅したって駄目よ! そんなのにこのアタシが屈するもんですか!」
「ならば脅しでないことを分からせてやろう」
そう言って年嵩の男がヒュンと刀を振ると、女の横髪がハラハラと落ちていく。
「……アタシの、髪が、」
「次は首を斬るぞ」
じりじりとにじり寄って来る男達を、女はギロリと眼光鋭く睨みつける。
「アタシの髪、あの人が綺麗だって言ってくれたのに。お前達、最低ね! ひどいわっ!!」
菫色の波打った美しい髪。それを切られて女は怒りを露にする。
怯える所か激昂する女に男達が戸惑っていると──。
「丸腰の相手に刀を手にして三人がかりとは、いささか卑怯……いや、情けないことだな」
「まーじダサ過ぎっしょ、おじさんたち! ヤバ~!!」
現れた黒髪と金髪の二人組──そう、血河と八裂だ。
「な、何者だ!」
「我々の邪魔をするな!」
刀の切先を女からこちらへと変えた男達に血河は淡々と言う。
「俺に刀を向けたな。これで正当防衛が成立する。……ハチ、やるぞ」
「りょ!」
横ピースで元気よく返事する八裂の体がまるで糸や紐のようにほどけていく。そしてほどけたそれは新たに太刀を編み上げると、血河の手の中へとおさまった。
「……ひ、人が刀になった。ひぃぃ、この化け物め!」
「こ、殺せ! 殺せ!!」
男らの内、若い二人は突然のことに動揺して刀を構え血河へと向かって行く。
血河は一人の斬撃を太刀で受け止める。そしてもう一人の斬撃は体で受け止めた。横腹に食い込む刃の痛みに顔を少しだけしかめた。
「痛いな。だがその程度では死んではやれないぞ」
受け止めた刀を押し返してまず一人を転ばせると、続けて横腹を斬りつけているもう一人を蹴り飛ばす。血に濡れた刀が地面に落ちると、血河の傷口は既に修復を始めていた。
「……貴様、ヒトアラズか」
年長の男が言うと、血河は首を横に振る。
「いいや、不老不死のセンジンだ」
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