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センジン・血河はヒトアラズの八裂が変身した太刀を構える。
「さぁ、来い。三人同時にかかって来てもいいぞ」
それは明らかな挑発であり、血河はひと暴れして憂さを晴らす腹積もりであった。しかし。
「……いや、やめておこう。我らでは貴殿には敵わない。もうこの辺りには近寄らないようにする、それで許してもらえないだろうか?」
年長の男は刀を鞘に戻すと、すんなりと頭を下げた。これには血河は拍子抜けしてしまい、つい言ってしまう。
「……それを信じよと言うのか?」
城下町までのこの道は多くの人が行き交う。物取りをするには最適な場所といえるのに、それを簡単に手放すとは考えにくい。
「では、私の命で手打ちにしてもらえないか? この二人は許してやってほしい」
仲間二人を命懸けで庇う男の姿に血河は押し黙る。すると──
「チ、チカさま! その方は嘘偽りなど申しておりません! 心の底から本心で、この地を離れるつもりでございます!」
遅れて追いついてきた亀代が息も絶え絶えに叫ぶ。彼女はヒトアラズ。人の心を""声""として聞くことが出来る異能を持っている。
少女の必死の叫びを聞いて血河がため息をつくと、太刀はほどけて八裂の姿へと戻っていく。
「……はぁ、興が削がれた。さっさと行け」
「ひゅ~、チカ優しい~♪」
男達はそそくさとその場を立ち去って行くが、最後に。
「ご親切、誠にかたじけない」
そう言ってもう一度頭を下げた。
男達がいなくなり、ヤタが血河の肩にとまる。この烏も負の波動の影響で三つ足となり人間の言葉を話すことが出来るのだ。
「あの追い剥ぎ共、牢人だな。育ちの良さが隠しきれてねぇぜ」
戦国乱世、主家を失ったり見限ったりする者は多くおり世は牢人で溢れていた。行く当てもなく流浪する彼らを血河はまるで自分のようだと思う。
するとその時、八裂のすっとんきょうな声が響く。
「あれー? つか、女の人いなくなってんだけど!」
少年の言う通り、牢人達に絡まれていた女はいつの間にか姿を消している。だがその代わり、竹皮の上に饅頭が三つ置かれていたのだった。
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