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芙爛の心音や呼吸を確認してから業病は淡々と言い放つ。
「死んでるよ」
そう言う男の顔には表情というものがなく、普段が柔和な顔つきだから酷く恐ろしく見える。
「ご覧、血河くん。人間とはこの程度で死んでしまう。なんと儚いことか」
血河は永遠の眠りについた牢人を見下ろす。
「ああ、そうだな。俺はそれが羨ましい」
「私もそうだよ。……さて、ではもう一仕事だね」
業病はいつもの調子を取り戻すと、家屋の蔭に隠れて様子を窺っている裏切りの家臣達の元へと歩いて行く。
「やぁ。頼みの綱であったフランくんは亡くなり、君達では血河くんには敵わないわけだが……私の質問に答えてもらえるかな?」
業病の後ろへ強い威圧感を放ちながら立つ血河と人の形へと戻った八裂を見て、二人の男は尻餅をついて何度も頷く。
「ではまずひとつ。私とシチが繋がっていること、そして私がセンジンであること……君達はそれを誰から聞いたのかね?」
「し、白い長い髪で大きな瓶底眼鏡をかけた唐人の男だ、名は知らぬ! 2日前にふらりと目の前に現れて教えてくれたのだ。我らとしてはお主だけを手に入れられればよかったが、お主で毒娘が釣れるならと欲をかいた」
白髪で大きな瓶底眼鏡をかけた唐人と聞いて、血河と業病は自分達を作り出した男の姿を思い浮かべる。
「……では次だ。君達があの牢人を雇った経緯は?」
「毒娘を捕まえるなら適任がいると言って唐人が連れて来たのだ。我々は毒なんかでは死にたくない、だから捨て駒として雇ったのだ。……なのに、こんなことになるだなんて、」
唐人が芙爛を連れて来たというなら、芙爛に朝之助を殺したのは四散だと告げたのは十中八九その唐人であろう。業病は違和感を覚えたが、今はそれに触れない。
「さて、では次で最後の質問だ。正直に答えるように」
まるで問診のような口振りで業病は続ける。
「君達は毒の体を持って生まれてしまった憐れな娘を13年もの間暗い土蔵へ幽閉し、人を殺させた。それをどう思っているのかな?」
男達は顔を見合せ後、すまなそうな顔をして頭を下げる。
「大変すまないことをしたと思っている、」
「今更悔いても悔やみきれない程だ」
そんな悔恨の言葉を並べる男達を決して許さぬ声が上がる。
「嘘つき! そんなこと思ってもないくせに、わたしには分かるのよ!!」
倒れた四散の傍で泣き叫ぶ亀代には男達の本心が聞こえている。
──ヒトアラズなどどうでもいい。だが耳当たりの良いことを言わねば殺されてしまう!
──バケモノなどいくら死んでも構わぬわ! それが何故こうなるのか!!
あまりに酷い言葉に亀代は痛む頭を抱える。そんな彼女の元へ八裂は駆け寄り、優しく肩を抱く。
心を見抜かれて慌てる男達に対して業病は素っ気ない。
「まぁ、シチの事について君達には最初から何一つ期待などしていないよ。……ただちょっと、聞いてみたかっただけさ」
そう呟くと、業病は目の前の男達に興味を失ったようだった。
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