小さな国のバレリーナ

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目を閉じると、波の音、、、海の匂いがする、、、。 ドアを静かに開けると曲が流れ、1人の バレリーナが踊っていた。 キラキラ光る、太陽の日差しが眩しい中で、1人、踊っていた。 太陽の光が、スポットライトになって、皆、見惚れてしまう。 貝殻を敷き詰めた美しい舞台だった。 桜色した貝殻や、白く煌めく貝殻に、七色に光る貝殻達。 形は違えど、まるで競い合って、 「私が、1番綺麗でしょう」と、ひしめき合っている様だ。 だが、1番美しいのは、あのバレリーナだと、皆んな本当は知っている。 「先生! 夏休みに、先生のおうちに遊びに行ってもいいですか?」と、放課後の教室で、なんとなく思い立って、そのままの思いを声に出してみた。 「えっ?」と、少し驚いた先生が、にっこり笑った。 「いいわよ〜、、ただ、皆んなは夏休みだけど、先生は、まだ夏休みじゃないから、お休みの日が決まったらでいいかな?」と、、、 「なーんだ〜、、先生は夏休みじゃないんだ〜、、先生って、大変なんだね、、、」と言う私に、満面の笑みを返してくれた先生。 私が、初めて、素敵なお姉さんだな、素敵な大人だな、と、心から信頼出来た、小学1年生の担任だった。 行ってきます!と、ランドセルを背負って、毎日、高学年のお姉さんや、お兄さんと登校する学校だった。 1年生のクラス迄、送り届けてくれる。 「またね!」と手を振って教室のドアの前で見送った後に、ランドセルから教科書や筆箱を机の中のケースに入れたら、 隣の席の子と、昨日のテレビの話か、面白かった出来事の話をするくらいだった。早く、学校へ着くと、時間を持て余してしまう。 心の中で、退屈だな、、と思いながら、黒板の横に貼ってある時間割表を見つめていた。 「あっ、、、忘れ物!」やってしまった! 夜、寝る前に、時間割を確認して、必要な物、例えば、体操服や音楽の授業で使うカスタネット、給食袋の中のランチョンマットを入れ替えたり、 ハンカチに、それから、、、 などなどを準備する。1年生とはいえ、なかなか、忙しいのであります。 夜に、支度をせずに寝てしまうと、朝、母に気づかれないように、朝食の前に、バタバタと準備をする。 何食わぬ顔をして、朝食の席に座ると、そんな時に限って、、、 「忘れ物しないように気をつけてね、、」と、パンにバター塗り塗りしながら、さりげなく言う。 こちらも、バレていない事を祈りつつ、 「わかってますって!」と、、、 心の中で呟く。 「聞いてる?」と、再確認され、動揺しないように、「えっ?う、うん、聞いてる。」と平然とした態度でいるが、 バレていないはずが無く、、やっぱり、お母さんって、凄い! 世のお母さん達は、子供に対しては特に、透視能力があるのではないか⁉︎と思うくらい、全部、お見通し、、なのです。 一々、細かい事は、言うだけ野暮だと知っています。およがせといて、言動を見ているのです。お母さんは、刑事みたいだ。 子供が、きちんと出来れば、ホッとし、残念ながら失敗すれば、失敗から学ぶ様に、、うちは、見守り型の母だ。 「廊下は、走ってはいけません」、、、 「はい、分かっております!」と、ブツブツ言いながら、小走りで、職員室へ行く。 忘れ物をした場合は、現在のように、携帯電話などない時代で、職員室の電話を借りて自宅へ連絡すると、母が、コラア〜と、言いたげな表情で、 忘れ物を届けてくれた。そんな学校のシステムも、有り難かった。なにより、母に感謝だ。 忘れ物なんて、小学一年生なら、まだ、可愛いものです。「えーーーっ‼︎ そんな事言って大丈夫ですか?」 「どの口が言ってるのか?」と叱られそうですが、、、、 ある日の私は、心の中で退屈だな〜と思ったあと、何故か、手ぶらで、帰宅した。 朝、通常通り、登校したはずの子が、リビングでテレビを見ていたら、お母さんは驚くでしょう‼︎ 一瞬、夢かと思い、現実についていかない自分に戸惑うお母さん。 「学校、どうしたの?」と聞かれて、母の言葉と重なりつつ、、「つまんないから、帰ってきちゃった。」と、平然と言い放った私に、言葉を失ったお母さん。 そこに、電話のベルが鳴った。 「はい、申し訳ございません。ご心配おかけして、、」と、頭を下げているお母さん。 何事もなかった様に、お昼を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。 母と先生が、玄関で話をしていた。 先生がランドセルを持って来て下さった。 「今日は、大丈夫ですから、、、、、、。 陽子ちゃん、明日、学校で待ってるね。」と先生が言いかけた時、私は、部屋のドアから半分顔を出して「はい」と返事を返した。 母も、先生も、私を叱ることはなかった。
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