Dress up

6/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「だけど私でも、友達が高校の体操服のジャージ着て出迎えてくれたら、なんて言っていいか困るかも」  それでも笑いを嚙み殺しながらの燈里の言葉に、彼女が澄まし顔で返して来る。 「高校のジャージって一応名の通ったメーカー品だし、傷んでないのに買い替える必要ないじゃん。『他人』に見せるわけじゃないしさ。……ただ校章と校名はまだしも、デカデカと名前の刺繍入ってるから、コンビニ行くにもいちいち着替えるか上になんか羽織らなきゃなんないのが面倒かな」 「ち、千晶さんて本当に私が最初思ってたのと全然違うのね。──凄く、好きだわ」  整った顔立ちの、服も髪も化粧も爪の先まで神経の行き届いたスタイリッシュで美しい大人の女性。  その第一印象が彼女曰く「擬態」の結果ならば、一部の隙もない完璧な出で立ちは(まさ)しく『化ける』と表現するのに相応しかった。  彼女の本意とは離れて、周囲を、他者を欺くためなのだから、完全に褒め言葉として。  不思議な縁で得た友人。繕わない、余計な心の武装も化粧もなしで会話できる相手。  京介がいなければ顔を合わせることさえなかった彼女と親しく付き合えるようになれたのも、また運命なのかもしれない。                                ~END~
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!